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スキのない布陣で圧勝、関東にはもはや敵なし!
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(2006.11.03) |
あれから7年……。渋井陽子と土佐礼子
駅伝の醍醐味はタスキをうけると同時にすっとんでゆく。常に前へ前へと自身の躯をはこんでゆくスピード感あふれた走り……である。並んでも決して抜かせない。最後までスピードで押しきってしまう。現在の女子長距離界を見渡して、そういういかにも駅伝らしいレースをみせてくれるのは福士加代子と渋井陽子の2人である。
3区に登場した今年の渋井陽子は、顔つきがいつもよりひとまわり小さくなったようで、 それをみただけでも今年にかける彼女の意気込みのほどが感じられた。2区でトップに立った三井住友海上は前半のポイントというべき3区に渋井陽子を配して、一気に7連覇の足がかりをつくろうというもくろみだったのだろう。
2位の資生堂との差は6秒、後方から追ってくるであろうO・フィレスのホクレンとは49秒である。渋井はいつもながらの独特の前傾姿勢でハナからガンガンいった。彼女にとって相手はどうでもいい。むしろ自身のモーティべーションのありかたしだいなのである。追ってくるのは昨年1区を制したフィレスだが、足音も聞こえない相手なんか目ではないというふうであった。
2位の資生堂・加納由理はみるみる背後に遠ざかり、熾烈な2位争いを知るよしもなく、予定通りに独走体制を築いてしまった。彼女にしては終始真剣なまなざし、きっと胸に期するものがあるんだろうと思った。
渋井陽子が本大会に初めて登場し、いきなり爆走して、衆目をあっといわせたのは2000年である。今回も5区に登場した土佐礼子とともにエースとして、三井住友海上に初制覇をもたらした。あれから今年で6年である。
2006年の優勝メンバーをあらためてふりかえってみると、3区・渋井陽子、5区:土佐礼子、そして4区には今回1区を走った大平美樹がいる。つまり渋井は土佐とともにつねに三井住友のエースとして君臨、大平美樹もふくめた2000年体制で、今年で7連覇の三井住友の歴史をつくってきたのである。
渋井陽子というのはやるせないランナーである。2001年1月、大阪国際女子マラソンで、2時間23分11秒という初マラソン世界最高記録をつくって初優勝、同年8月のエドモントン世界陸上では女子マラソン4位入賞。ポスト高橋尚子の1番手としてアテネオリンピックの有力候補になりながら、彼女はいつも勝負のかかったレースではいまひとつ乗り切れないのである。
2003年8月のパリ世界陸上では10000mで出場したものの周回遅れの14位、翌2004年アテネの女子マラソン代表の座がかかった大阪国際女子マラソンでは9位と完敗して、あえなく散った。
まだまだある。2005年3月の名古屋国際女子マラソンでは、レース直前に風邪をひいたらしく体調不良で7位に終わり、ヘルシンキ世界陸上の代表になれなかった。2006年3月の名古屋でも、レース中盤は後続をぶっちぎりながら、終盤ペースダウンして弘山晴美にひっくりがえされた。10000mの日本記録保持者であり、マラソンでも一時日本記録を持っていた、にもかかわらず、いまだ脇役に甘んじているのである。あと一歩に肉薄しながら、最後の壁を突き抜けられないのである。
今大会でみせたいくぶん精悍になった相貌、あれは大人になったというよりも、今シーズンにかける彼女の秘めたる決意がこぼれていたのかもしれない
三井住友! 好位キープから2区で抜け出した
昨年快走したホクレンのO・フィレスがいなかったのだが、1区はハイペースで幕あけた。前半ひっぱったのは豊田自動織機の新谷仁美、昨年は高校駅伝、全国女子駅伝の1区で快走してアッといわせたが、1q=3:05というかなりのハイペース、だが覇権のかかった実業団のレースとなれば、主力どころはルーキーに名をなさしめるようなことはない。 三井住友の大平美樹、第一生命の垣見優佳、資生堂の佐藤由美、日立の赤石久美らが集団になって進んだ。
3.5qでは4人が抜け出すかっこうでトップ争いがはじまり、6qでは第一生命の垣見がしかけるなど、先頭ははげしく入れ替わる。だが最後は余裕をもっていたらしい日立の赤石久美が抜け出した。
三井住友、第一生命、資生堂などが5秒以内でづつき、昨年2位のホクレンは24秒差の8位、しまむらは44秒遅れの12位と出遅れた。
2区では三井生命の山下郁代が200mゆくかゆかないうちにトップを奪い、7連覇への道筋をひらいた。2位には6秒差で資生堂があがってきて、早くも両雄の一騎打ちムードになる。2区で注目されたのは資生堂のランナー・藤永佳子の復活である。ひさびさの登場だが、きっちりと区間2位に走りでまとめたのはさすがというべきである。
全日本大会ゆえに、予選ボーダー争いも気になるところ。全日本大会への出場権を得るには11位以内であれば文句なし。12位以下の場合は2時間20分以内でなければならないのである。
2区を終えたところでは、昨年6位のアコムと11位のセガサミーが、それぞれ14位、15位と出遅れ、トップから2分もの差をつけられていた。
中盤のみどころは弘山と土佐のミセス対決!
3区にはいって三井住友が抜けてしまい、興味はもっぱら2位争いになってしまった。資生堂の加納由理と日立のR・ワンジクがはげしくツバ競り合い、後ろからは7位でタス キを受けたホクレンのO・フィレスが1q=2:59秒という入りで追いあげ、2.6qでは早くも4位まで押しあげてくる。
フィレスの追撃はさらにとどまるところをしらず、8qすぎでは2位集団をとらえてしまう。9qすぎでは2位にあがってくるのだが、このときトップをゆく三井住友の渋井とは1分をこえる差がついていた。
駅伝ではふつう追うものが強みを発揮するはずなのだが、逃げる渋井は追われても、いささかのゆるぎもなかった。ひとり旅で逃げながら、逆にその差をひろげてしまったのだから、いかに凄みのある走りであったかが解ろうというものである。
3区を終わって、伸びきれないでいたのは第一生命で6位、しまむらは9位まで順位を押し上げてきている。下位ながら大島めぐみの区間3位の走りはさすが……である。
三井住友は4区の岩元千明がしっかりつなぎ、最長区の5区ではもう一枚のエース・土佐礼子が登場してくる。
2位にあがってきた資生堂は弘山晴美、かくしてミセス対決になるのだが、やはり目標のある者は強い。2週間後に東京国際マラソンであの高橋尚子と競う土佐礼子は弘山の追撃をゆるさなかった。5区は4回目だという土佐は、まるで吐息がもれてきそううな口を少し開けた形相でひたすら疾走、ライバル弘山に40秒もかせいでしまうのである。土佐が因縁のミセス対決を制して、レースの先行きはほぼみえてしまった。
この区間、目についたのはパナソニックの杉原加代で、土佐に次ぐ区間2位の走りでチームを一気に4位までもってきた。
本戦でも三井住友の牙城はゆるがない?
5区を終わって首位の三井住友と2位・資生堂の差は1分41秒……。勝負は決してしまい、興味は出場権をあけた11位争いにしぼられた。5区を終わって11位はアコム、12位のアルゼとのタイム差は57秒……。だが6.8qの区間での逆転はこの時点でほとんどむずかしい情勢、あとは20分を切れるかどうか……であったが、これも区間新でもほとんど不可能というわけで、皮肉にもアルゼは2年連続で次点に泣いた。
三井海上の勝因はエースの2枚看板にくわえて繋ぎの選手たちも安定した力を発揮したことがあげられるだろう。2区、3区、5区、6区で区間1位、そのほか1区は2位、4区も3位で、メンバー全員が区間3位以内を占めているのである。
2位の資生堂、3位のパナソニックもそれぞれ力通りの結果だが、本戦ではR・ワンジクと杉原加代をもつパナソニックのほうが面白いかもしれない。
後続のなかでは9位にはいった豊田自動織機、若い有望な選手が多いだけに、もしかしたらサプライズがあるかもしれない。
西の淡路駅伝ではスズキがいちどもトップをゆずることなく大会新で初優勝したという。2位は天満屋、3位は3連覇ににぞんだ京セラ、ワコールは4位だった。スズキの充実ぶりが目立っているが、敗れたりとはいえ京セラは3人が区間賞をとり、出場メンバーもベストではなかった。
全日本で4連覇にのぞむ三井住友にしてみれば、京セラ、天満屋、スズキあたりが当面のライバルになりそうである。だが、本大会でみるかぎり、三井住友の強さはきわだっており、よほどの紛れがないかぎり、王座はゆるがないだろう。今回も6人ぎりぎりのメンバーでのぞんだように、むしろ怖いのは故障者が出ることだろう。
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出場チーム&過去の記録 |
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関 連 サ イ ト |
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