 |
中・高校生に分厚い布陣、総合力が勝った! |
(2007.1.23) |
飛松誠! スピード駅伝ゆえに、きわだつ存在感!
まさか3位争いが最後の見どころになるとは考えたこともなかった。
最終7区、トップ兵庫の北村聡が行き、追ってゆく長野の佐藤悠基との差がタスキ渡しのときの1分16秒をこえ、優勝争いが結着したとき、後ろでは3位から入賞圏内の8位をめぐる争いがにわかに熾烈になってきたのである。
兵庫、長野のあと、大分の田吹隆一ががつづき、その背後では、熊本(徳永孝志)、福岡(植木大道)、群馬(高橋憲昭)、栃木(佐藤慎悟)、愛知(糟谷悟)、新潟(涌井圭介)、宮城(保科光作)、長崎(阿部裕樹)が4位集団でつづき、さらに後ろからは佐賀の飛松誠がじりじりと迫ってくる……という展開であった。
13位でタスキを受けた佐賀の飛松誠、いちど見たら忘れられないランナーである。背をまるめ肩をいからせた独特のフォームはスピード感などとは無縁、どちらかといえば格好の悪い走りというほかない。パッと見には、駅伝レースとは場違いの角刈りのオッさんが走っている……という感じなのである。
飛松誠をはじめて見たのは、例の「ミレミアム」2000年問題で大騒ぎしたその年の箱根駅伝である。帝京大の1年生(?)だった飛松は5区の山登りに登場、やはり変わることのないゴツゴツとした走りながら、黙々とあの険阻な坂道を駆けあがり、往路4位でゴールした。
帝京から安川電機に入社、今年で実業団3年目になる飛松は「ふるさと」選手として3度目の出場だが、7年前の第5回大会での3位、第8回大会の2位と、佐賀が好成績をあげた大会にはかならずメンバー入りしているのである。今季も九州一周や九州実業団など駅伝で元気なところを見せ、元日の全日本実業団駅伝では2区で14人抜き、安川電機7位入賞の立役者になっている。
さて、レースのほうは、前の4位集団がやがて3位の大分を吸収、9チームによる3位集団となるのだが、後ろから飛松がじりじりと迫ってくるのである。とうとう10qすぎでは3位集団に追いついた。
残り2qあたりから3位と入賞をめぐる争いはさらに激しくなり、最後は福岡、熊本、群馬、宮城、長崎の5チームと飛松の佐賀をくわえての6チームが抜け出した。
そしてゴール目前では長崎、熊本、福岡と飛松の佐賀……という九州勢が3位をめぐっる激しいデッドヒート、「根性のたたきあい……」飛松自らが言うように、まさにド根性でもって、わずかに一歩、混戦から抜けだした。
スピード駅伝の時代になって久しいが、まったくスピード感が感じられない飛松のような選手が、区間賞を奪ったのは、皮肉というほかなく、観戦していて、たいへん愉快であった。
埼玉:中西拓郎が混戦の1区を制す!
4連覇のかかる長野、3年連続2位に甘んじている兵庫、さらに地元の広島が割ってはいってくるか。今大会もレースの焦点は長野と兵庫の動向にあった。
全国男子駅伝の特徴は区間ごとに高校生、中学生、一般・大学生……と、きっちりと区分されているところにある。中学・高校生が強くて、一般・大学生の2人に「後一押し」があるチームが優勝にいちばん近い。実業団と大学生はそれぞれ、新年に箱根、全日本という大きな大会で目一杯のレースをしているので、なおかつ最後の一押しの効く選手がいるチームが強さを発揮するというわけなのである。
1区は高校生の区間だが、1q=2:56秒という入り、47人で横広がりの大集団、中央には埼玉の中西拓郎の顔があり、やはり高校駅伝でも1区を制した中西が主導権をにぎっているようすだが、3qでは10:23……と超スローペースである。
5qではようやくペースが少し上がり、埼玉の中西、愛知の清水紀仁、岩手の小田島真、兵庫の谷野琢弥などがかわるがわる顔を出すのだが、いぜんとして大きな集団にゆるぎはみられない。
ラストのスプリント勝負になりそうな気配、そうなれば、あまり大きな差なく、中継所になだれこんでゆくことだろう……と思われたが、予感通りにレースが動いたのは残り1qの地点だった。
埼玉の中西が仕掛け、兵庫の谷野が追いかけ、広島の清谷匠、長野の村澤明伸といった有力どころがまず反応した。
中西はやはり強かった。ラストで広島の清谷がついてきたが、余裕を持って最後は引き離した。
広島は5秒差の2位……と好発進、長野はトップから8秒遅れの8位、兵庫はそこから1秒遅れ……と、優勝候補の2チームはほとんど差がなくタスキ渡しを終え、まずは順調な滑り出しであった。
2区・3区で兵庫がイニシャティブ!
2区は中学生の区間だが、1区でほとんど差がないところタスキをもらっているせいだろう。順位はめまぐるしく変転した。
トップの埼玉の郷裕貴を広島の藤川拓也と大分の油布郁人がならんで追いあげ、後ろからは愛知の山本修平が迫ってくる。
1qすぎで広島と大分が埼玉をとらえてトップに立つ、さらに1.4qでは愛知が追ってきてトップを奪ってしまう。兵庫の志方文典と長野の茅原祐也は2qあたりまで5秒遅れで5位集団を形成していたが、志方文典がペースをあげてくる。広島、大分、埼玉を次ぎつぎにとらえて、残り400ではとうとう2位まで押しあげてきて、トップの愛知までもとどくかの勢いで3区にタスキが渡るのである。区間1位となった志方は、さらにジュニアB優秀選手賞(中学MVP)をも獲得した。
長野は8位で兵庫から15秒遅れでつづいていたが、後になって考えると、この2区の勢いの差がレースを左右したのかもしれない。
3区は一般・大学生の区間だが、ハイスピードの争いになった。
兵庫の竹澤健介はタスキを受けるやいなや、3秒差を一気に詰めてトップに立ってしまう。愛知の内田直将と大分の佐藤智之がしぶとく食い下がってゆく。1qは2:35だというから、これは速い。
さらに後ろからは2区で遅れをとった長野の上野裕一郎が広島(田子康宏)、埼玉(川畑憲三)、福岡(前田和浩)、京都(山本功児)ら4位集団をひきいて18秒遅れでつづいてくる。
3qすぎではトップが兵庫、2位には大分があがり、3位に愛知、4位集団が長野以下4チームという形勢となった。
兵庫の竹澤はいまひとつ動きがよくないようにみえたが、佐藤や内田といった実業団選手を蹴散らしてしまった勝負強さはさすがというべきか。
4位集団から抜けだした上野はじりじりと追うあげ、中間点の手前では3位にあがったが、そこからは伸びを欠いた。
上位の上野、竹澤を上回ったのが香川の大森輝和である。47位という最下位でタスキをもらった大森は3q=8:15というハイペースで追いあげ、9人抜きでチームを38位まで押しあげた。
大森は過去4度の出場で3度の区間賞、通算で79人抜きという快挙を達成、MVPに相当する「優秀選手賞」を獲得した。
兵庫! 勝負を決めたのは4区、5区の高校生!
3区を終わってトップは兵庫、2位は大健闘の大分で8秒遅れ、そして長野が11秒遅れでつづいており、兵庫と長野の争いはいまだ火花散っていたが、結果的に見て勝負を決めたのは4〜5区の高校生区間であった。
トップをゆく兵庫の4区は中山卓也である。中山は1qの入りが2:40というペース、3qも8:26秒というハイペースで後続をどんどんと引き離してしまう。思わず、その大きな走りはほれぼれしてしまった。
中山は88年ソウル、92年バルセロナでマラソン4位となったあの中山竹通の長男であるという。血筋は争えないもので、あらてめて写真で2世のフォームをよくみると、頭から肩ぐちにかけてのフォームは、父親とそっくりなのである。
兵庫といえば西脇工高か報徳学園だが中山卓也は男子・高校駅伝の両雄ではなくて、女子駅伝で知られる須磨学園高の2年生である。中山のような選手が観られるのも、全国男子駅伝ならではである。
4区はいわばつなぎの区間といえるのだが、2位の大分とは34秒、そして長野との差は42秒と開いてしまった。中山の快走が長野4連覇にイエローランプを点灯させたのだが、かれがジュニアA優秀選手賞(高校MVP)に選ばれたのは、そういう意味で当然であろう。
5区でも兵庫は強かった。8.5qという長い距離だが、八木勇樹が、中山の勢いに乗じたかのように素っ飛ばした。2位の大分とは58秒、3位の長野には1分14秒……という大差をつけてしまうのである。
駅伝王国・九州の復活! 4チームが入賞
6区の中学生区間でも兵庫はトップをまもり、2位には大分が1分08秒差でつづき、長野はいぜん3位で1分16秒もの大差がついてしまった。長野のいがいに伸びて来ない。大分の健闘ぶりがひときわ輝きを放っていた。
7区は兵庫が北村聡、長野は佐藤悠基という大学駅伝のエースだが、いくら佐藤でも差がありすぎた。北村の1qの入りは2:50、佐藤は2:41……。だが勝負はすでにて決していた。佐藤は大分を交わすのが精一杯、兵庫の北村は余裕の走りで、4回大会以来、8年ぶり2度目の優勝テープを切った。3年間も長野に名をなさしめ、2位に甘んじてきた恥辱を一気に晴らしたという感じである。
兵庫の勝因ははやり中学生、高校生が堅実に走ったからだろう。中・高生と一般・大学選手とのバランスがよく、総合力がいかんなく発揮されたとみる。
4連覇をもくろんだ長野は3区までは差のないところにつけていたが、4区以降の勝負どころで引き離されてしまった。中学生・高校生の区間で層の厚い兵庫との差が出てしまったようである。
中学、高校、男子実業団……と、男子駅伝を制したチームをもつ広島は、それだけに注目されていたが、最終的に13位に終わってしまった。1区で2位と好位置につけながら、3区の一般区間で大きく順位を落としてしまった。日本一の中国電力から実績ある選手が出てこなかったこと、さらに中・高校生はまずまずの成績だったが、2人の実業団選手が区間39位と22位というありさまでは、まあ、どうしようもないだろう。チャンピオンシップの大会でないからといって、手をぬいたというわけでもないだろうが、ちょっとヒドすぎる。
健闘したのは先にのべた3位の佐賀ほか、長崎、熊本、福岡の九州勢であろうか。最後まではげしく3位争いをつづけた熱闘ぶり、かれらにとっては九州1周の延長と考えていたのかもしれない。
もうひとつ……忘れてはならないのが大分である。最終区でこそ12位まで順位を落としたが、2区から6区まではつねに2〜3位をキープしていたのである。3位から7位を占めた九州勢よりもむしろ称えられるべきではないかと思う。
九州勢が存在感をしめいたという点で、ひさしぶりに九州が駅伝王国であることを強く印象づける大会となった。
|
|
|
|
|
 |
|
出場チームHPムHP |
|
 |
関連サイト |
|
 |
|