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ロシアが前半で勝負を決めた 連続の区間新でぶっちぎりの独走! |
(2007.2.27) |
小林祐梨子に第2の弘山への期待!
「トラックの女王」という異名を持ち、現在はマラソンに力をそそいでいる弘山晴美は、もともと中距離ランナーだった。アトランタ、シドニー、アテネと長距離トラック代表選手として、オリンピック3大会連続で出場を果たした。日本陸上界をみわたしてオリンピック3大会に連続出場したのは弘山一人だけである。
中学で陸上を始めたころの弘山の活躍の舞台はもっぱらトラックで、かつて1500m、3000m、5000mの3種目の日本記録を独占していたこともある。
横浜国際女子駅伝の時評なのに、どうして出場メンバーでもない弘山の話を初っ端から持ち出すのか? それには理由(わけ)がある。高校生にして、中距離1500mの日本記録保持者・小林祐梨子(兵庫・須磨学園高)について触れたいと思うからである。そのために伏線を張っている。
弘山は中学時代に800mからスタート、年を追うごとに距離を伸ばし、中距離、長距離とステップを踏んで最後はマラソンにたどりついた。
女子の長距離選手は中学時代、高校時代に天才といわれていても、20歳をこえると競技から去ってゆくケースが多い。高校生ながらすでにして実業団クラスの走力を持ち、本人や周囲、そしてファンも輝かしい将来に夢を馳せたものの、故障がきっかけでいつのまにか競技から去っていった。大人の躰になりきるまでに、あまりにも過酷な減量をつづけ、あげくのはてに心身ともにすり切れてしまう。そういう例がいかにも多いのである。
そんななかで弘山はつねにトップアスリートとして第一線にあり、38歳になった現在も現役として活躍しているのである。
小林も当面は活躍の舞台をトラック中心にして、世界に羽ばたく骨太のランナーになってほしい。第2の弘山をめざしてほしい。駅伝に小林が姿をみせるたびに、そんなふうに思うのである。
圧巻の第1区 これそ世界レベルの走り!
今回の出場チームは地域選抜と神奈川の7チームを含めて14チーム、そのなかではロシアとアメリカだけがなんとか戦えるチームをつくってきた。日本チームは平均年齢20.5歳という若いメンバーで、ロシア、アメリカにどこまで迫ることができるのか。みどころはをあげればそのあたりで、とくに1区に登場する高校生・小林がどんな走りをみせてくれるか……が焦点であった。
注目の1区は予想通り、スタートからスピード勝負の展開になった。ロシアのショブホワ、アメリカのハインズ、日本の小林祐梨子、ケニアのドゥングが抜けだした。1qは2:56というハイスピード、早くも1区と4区の区間記録ホルダーのショブホワが抜けだして、小林とハインズがならんで続いてゆくという展開。小林の通過も2qが6:00だから速いが、ショブホワはその先を行っているのである。
3qの通過が8:49で区間記録を12秒も上回るペース、4qでは11:50、この時点で区間新記録が確実になった。
今年の駅伝で4q区間しか走っていない小林にとって、現在の時点では5qという距離は長すぎるのかもしれない。さすがにアメリカのハインズにも置いてゆかれたが、それでもなんとか懸命にに粘りきった。
いつもながらスケールの大きさを感じさせる力強い走り。トップのショブホワからは28秒遅れ、2位のアメリカのラインズからは8秒遅れの3位なら、胸を借りる走りとしても、まずまずといったところだろう。
1区〜3区で決めた! ロシアが独走!
レースは1区で完全にイニシャティブをにぎったロシアが突っ走った。2区のボゴモロワが2q=6:11、3q=9:17……、アメリカのカスターが追い上げをもくろむが、すっかり流れに乗ってしまったロシアはやたら強くて、日本はもとちろん、アメリカでさえも歯が立たない。カスターは前半突っ込んでおよそ10秒差あたりまで迫ってきたが、勝負どころではまた突っ放されてしまう。このあたりが駅伝の面白さで、イニシャティブをにぎったとロシアに分があった。
終わってみればボゴモロワは31:08、カスターは1秒遅れの31:09でともに区間新記録を更新、3位の日本を突っ放して両チームがここで大きく抜けだした。
ロシアは2区のボゴモロワも1区のショブホワにつづいて区間新記録の快走、日本は若い大崎千聖を起用したのだが、31分台でゆくボゴモロワ、カスターにはとても歯がたたなかったようである。トップのロシアから1分40秒、2位アメリカからも1分以上も遅れをとり、勝負は2区でほぼ決してしまった。
3区もロシアはグリゴリエワが区間1位、アメリカを突っ放して、47秒もの大差をつけてしまう。ロシアは3区までで完全にアメリカをねじ伏せ、早々と勝負を決めてしまったのである。
ロシアは4区以降もコノワロワ、アビトワといった名のある実力者を配し、アンカーのシレアは楽々と逃げ切ってしまった。
ロシアは昨年につづいての連覇、通算9度目の制覇である。過去25回をふりかえると、連覇を達成したチームは皆無、今回のロシアが初めて……ということになる。
日本チームは若い勢いのある選手をならべて挑んだが、3位という順位以上の戦いぶりはみせてくれた。最終6区で橋本歩が2位のアメリカを急追し、今一歩およばなかったが最後は3秒差まで迫った。
1区の小林はともかく4区の宮内洋子(OKI)と6区の橋本歩(三井住友海上)が区間賞を獲得するなど、例年にくらべるとそれぞれ出色の健闘ぶりであった。
国際駅伝って何のためにあるの?
本大会は駅伝シーズンの最後を飾る大会だが、チャンピオンシップの大会でもなく、出場チームも少なく、ナショナルチームといえども、ほとんど力がはいっていない。中国にしてもケニアにしてもルーマニアにしても、明らかに手抜きメンバーでお茶をにごしている。
そんななかでロシアとアメリカがそこそこの顔ぶれをそろえてくれたこと、まず感謝しなくてはなるまい。
新聞報道によるとそのロシアが大会終了後に大荒れ模様だったという。ロシアの不満は大会運営に関することで、まず監督のワレリー・クリチェンコ監督が、レース後の写真撮影が「負けた日本が先に行われ、寒い中で待たされた」と口火を切り、区間新記録にについて何の表彰もないのはどういうことだ、と不満をもらし、選手たちもそれに追従したというのである。
区間新記録にたいする表彰は以前からなかったらしいのだが、ロシアに不満を募らせたのには、ほかにも遠因となる問題があったのだろう。原因がわからないという前に、大会主催者側は謙虚に反省しなければなるまい。
選手のひとりで4区を走ったコノモロワは「勝利者にふさわしい対応のしかたというものがある。負けた日本に対しては、それ相応の対応をすべきだ」といった意味の発言をしたというが、招待したお客様チームにここまで言わせてはならないだろう。
あるいは……。報道陣の対応も癇に障ったのかもしれない。日本の報道陣が、たとえば小林ばかりを追いかける。ショブホワやボゴモロワのような世界レベルの選手にしてみれば、「なんで?……」という気になっても不思議はないのである。
横浜国際駅伝というのは何のための大会なのか。25回目にして大会当局はすっかり初心を忘れてしまったようである。
小林の選択 大学生にして実業団のランナー?
ひるがえって考えてみれば、ロシアチームがそこまで怒るということは、真摯な気持ちで大会に臨んでくれたということである。そのように考えるなら、招待した側に問題がありそうである。
世界レベルのチームが日本に来て、ベストに近い状態でレースにのぞんでくれた。感謝すべきなのである。
そして、本気で来てくれたそのロシアに日本はとうてい歯が立たなかった。若いメンバーが中心だったとはいえ、大人とこどもぐらいの力の差があるのをみせつけられると、世界選手権の長距離はもちろん、マラソンでも世界レベルから相当置いてゆかれているように思われる。
将来をみすえると小林祐梨子の世代に期待をかけるしかない。その小林の話題をひろえば、今春から豊田自動織機に入社することになったらしい。すでに岡山大学への進学がきまっているが、同社の陸上部で活動しながら、国内留学制度を利用しながら岡山大へ通うかたちをとるという。
豊田自動織機は陸上部の指導を佐倉アスリート倶楽部(千葉県)の小出義雄にゆだねている。小林は今後も須磨学園高で長谷川重夫・同高監督の助言を受けながら、小出義雄のプランにのっとって練習をつづけ、大学が休みの期間は豊田の合宿等に参加するという。 大学生でも企業に籍を置き、学生連盟に登録してさえおれば、実業団選手としてみとめられるという。たから駅伝でも豊田自動織機のメンバーとして出場できる。
フレキシブルなかたちで競技生活をつづけるという小林の選択は、エリートランナーだからこそ実現できる道だといえるが、ある意味でこれが企業スポーツの新しいひとつのかたちなってゆくかもしれない。
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