|
執念でもぎとった逆転初優勝!
|
(2006.12.18) |
見どころあった! ダブルスコアの古豪と新鋭の死闘!
競技場の進入路にさしかかったときだった。
資生堂の弘山晴美と三井住友海上の大崎千聖、それまでたがいに影のようによりそい併走してきたのだが、弘山がするすると前に出たのである。差はじりじりとひろがってゆく。大崎はけんめいに追いすがろうとするのだが、すでにして、いっぱいいっぱいで、もどかしいほど躰が動かない。……。
弘山晴美は38歳、大崎千聖は19歳……。ダブルスコアの歳まわりである。大崎が生まれたころ、弘山はすでにして大学生で中距離のトップクラスの選手だった。大崎が5歳のころには、資生堂に入社して社会人2年目、日本選手権の1500mと3000mに優勝しており、翌年におこなわれるシュツットガルト世界選手権代表になっているのである。1500m、3000m、5000mの3種目において同時に日本記録を独占していたこともあり、フルマラソンでも2時間22分56秒の記録をもつ弘山は女子長距離界を代表するランナーで、大崎にとって、ながく仰ぎ見る存在だったはずである。
大崎にしてみればそんな弘山と駅伝日本一をきめる大会で、アンカー勝負の舞台に立つとは夢にも思わなかっただろう。
本大会はまれにみる大混戦となり、終盤になってもいっこうに勝負のゆくえはみえてこなかった。いつもなら5区を終わったあたりで、ほとんど順位づけは終わっているのだが、今回はトップの三井住友海上を追って、資生堂、ワコール、天満屋が30秒以内におさまっていた。
トップをゆく三井海上の大崎を10秒遅れで追っかける展開で最終区は幕あけた。弘山は早くも2qで大崎に追いついたが、一気に前には出ようとはしなかった。まるで若い大崎の寸法を測るかのように、じっくりと時を待つ作戦に出たのである。
大崎も怯むことなく果敢に勝負をかけていた。3.8qの登りで仕掛け、5q付近でも仕掛け気味にスパートをみせるなど、攻めの姿勢に徹していたのは観ていても清々しいものがあった。
さすがにトラックの元女王である。弘山は競技場に入るともはや大崎の追走をゆるさずに一気に駈けぬけた。いかにもベテランらしい駆け引きというべきか。元女王の執念をみる思いであった。弘山の区間新記録の快走によって資生堂は悲願の初優勝である。両手を高々とあげてゴールする姿に万感の思いがこもっていた。
涙する弘山のかがやく笑顔、能力の極限に挑みながら、今一歩のところで屈した大崎の虚ろな表情、若い彼女はのちのちまでも、このときの悔しさと眼に焼き付いた風景を忘れることがないだろう。
ぼくはひたすら駅伝に密着するのはなぜなのだろうか……。闘いおえた2人の姿をみていて、そのとき、ふいと思った。選手たちひとりひとりが体力、技術、精神力、チームワーク、集中力というものを、ぎりぎりのところまで追求するひたむきさに身震いするからだろう……と。
前半は天満屋がひっぱる!
レースはデオデオのW・ゲバソが引っ張る展開で幕開けた。1q=3:10、2q=6:10というペース、追っかけていったのはスズキの松岡範子で、あとは集団で進むという展開。2qからゲバソのペースが2:58……とあがったところで、ホクレンの赤羽友紀子が遅れ始め、早くも波乱ムード!
後半になってゲバソが若干スピードダウンするも後続におよそ10秒の差を付けてトップ通過、2位には豊田自動織機の新谷仁美がやってきて予選会でしくじった屈辱を晴らした。天満屋は12秒遅れの3位、資生堂は15秒遅れの6位、京セラは15秒遅れの6位、三井住友海上も19秒遅れの8位とまずまずのポジションをキープしたが、第一生命は垣見優佳が大ブレーキで24位と大きく出遅れ、ホクレンは14位、沖電気も17位と後手を踏む結果となった。
2区にはいると天満屋の浦田佳小里が1qすぎでトップを奪う。資生堂の尾崎好美、豊田自動織機の山根朝美、三井住友の山下郁代がそれほど差なくダンゴ状態でづづき、ワコールの西山弥生がどんどんあがってくる。
トップの天満屋につづいて、7秒遅れで資生堂、そこから1秒遅れで豊田自動織機、ワコール、三井住友がほとんど同時にタスキを渡すという状態でエース区間の3区に突入するのだが、ここで4連覇をねらう三井住友、資生堂はきっちりとトップをうかがえる位置までやってきた。
2区で健闘ぶりが目立ったのはワコールである。西山弥生が天満屋の浦田佳小里とならぶ区間賞の快走、陣営にしてみればうれしい誤算だったのではあるまいか。
意外だったのは淡路駅伝を制覇して意気上がっているはずのスズキである。1区ではトップから16秒差の7位というまずまずの位置につけながら、2区では順位はそのままだがなんとトップから45秒も遅れてしまったのである。
トップ争いの裏側でケニア人ランナーの競演!
エース区間の3区は今回も見ごたえがあった。前は優勝を争う主力チームが折り重なるようにしのぎを削り、後方では助っ人のケニア人ランナーの競演といういつものパターンである。
トップをゆく天満屋の中村友梨香はなかなかしぶとかった。1q=3:08の入りで快調に突っ走った。後続は三井住友の渋井陽子、資生堂の佐藤由美、豊田自動織機の岩本靖代、ワコールの風間有希が集団で天満屋を追っかける。
後方からはユタカ技研のE・ワンボイが今回もごぼう抜きであがっくる。さらに九電工のC.S.チェピエゴが中間点を15:35というラップで通過、ホクレンのO・フィレスとそれぞれ独自の闘いで上位に迫ってくる。
トップをゆく天満屋の中村は粘りの走りでトップをまもり、追っかけるほうは渋井と佐藤がはげしく2位争いを演じ、ワコールと豊田は少しづつ置いてゆかれるという展開のなかで、6位につけていた京セラの原裕美子が思わぬブレーキ、追い上げムードに水を差してしまった。
天満屋の中村の出来が良かったのか、それとも後続がいまひとつだったのか、三井海上は渋井陽子をもってしても天満屋を追い切れないまま、中盤から終盤へと差しかかる。9qをすぎて併走する渋井と佐藤は天満屋をじりじり追い上げるのだが、3秒差まで迫るのがやっとというありさまで、とうとう中村友梨香に逃げ切られてしまった。
後になってふりかえると、この3区でトップに立ってレースの主導権をにぎれなかったことが三井住友海上にとって大きな誤算になったのではあるまいか。中村に逃げられてうえに、佐藤由美に終始食らいつかれて、資生堂に決定的な差をつけられなかったことが最終逆転をゆるす遠因になったように思えるのである。
3区の区間1位をめぐる闘いはやはりケニア人ランナーの争いとなり、区間順位はE・ワンボイ、O・フィレス、C・S・チェルピコ、R・ワンジル……と上位を独占した。なかでも区間賞のE・ワンボイは今年も10人抜きを達成した。
新女王はニコっと笑って、1人、2人……と抜き去る!
三井住友はそれでも4区では橋本歩が区間賞の快走して、ようやくトップに立つのだが、資生堂の平田裕美も橋本に劣らぬがんばりをみせ、その差はわずか5秒しかつかないまま5区の最長区間にタスキが渡るのである。
三井住友は大平美樹である。本来ならば渋井とならぶエースの土佐礼子のはずだが、東京国際マラソンを走ったせいもあり、今回は出場してこなかった。資生堂は現在油の乗りきった加納由理……。ともに来春の大阪国際に出場する者同士のツバ競り合いとなった。
三井住友陣営にしてみれば、アンカーがルーキーの大崎だけに、ここで大きく差を稼いでおきたいところ、資生堂にしても、アンカーに弘山がひかえているので、食らいついて離れなければ、なんとかなる……という思惑が交錯する。
事実、資生堂の執念はすざまじいものがあった。加納は1.1qで早くも大平の追いつき、併走状態のもちこんでしまう。大平は懸命に引き離しにかかるのだが、コバンザメのようにくっいて離れない。4qすぎで大平が前に出はじめ、5qからじわりと引き離しにかかるのだが、決定的な差をうばうことができないまま中継点へ……。
最終的に大平は加納相手に5秒しか先んじることができず、トータルで10秒しか差をつけられなかった。三井住友にとっては3区につづいてここでも資生堂を突っ放すことができなかった。大誤算というべきだろう。
5区で圧巻の走りをみせたのがワコールの福士加代子である。アジア大会の10000m制した彼女は疲れも見せずにケタはずれの快走ぶりを見せてくれた。、まさにトラックの女王にふさわしい走りというべきか。8位にタスキをもらうとわずか0.6qのあいだに、にこっと微笑みながら3人を抜いて、5位まで順位を押し上げた。
1q=3:02、2q=6:04秒というペース、まさにエンジンパワーがちがうという走りであった。今回の区間賞ですでにして4回目、3区で2回、5区で2回、いずれもエース区間での成績だから、まさに圧巻というべきである。
女子駅伝も群雄割拠の時代が到来?
資生堂の勝因はまさに「執念」というべきか。アンカーに配した弘山晴美を活かせる展開にもちこんだということにつきるが、それならば、最終逆転のお膳立てをつくった走者がお手柄だったということにもなる。強いてあげれば3区の佐藤由美と5区の加納由理であろうか。3区でではあの渋井にわずか2秒しか負けなかった佐藤、5区では大平に5秒しか遅れなかった加納の健闘が、最後に弘山の区間新記録の快走を引き出したとみるべきである。
三井住友海上もミスがあったというわけではない。アンカー勝負に敗れた大崎千聖にしても区間新記録の弘山晴美に遅れること17秒、堂々の区間2位なのだから、負けてなお強し……。そうなるとやはり土佐礼子の抜けたアナは大きかったということになる。それに3区で主導権が握れなかったことも大きな敗因にあげられる。
それにしても……。東日本の予選で1分もちぎった相手に寝首をかかれるとは夢にも思わなかっただろう。4年前に第一生命に敗れたのとおなじ轍を踏んだとみるべきで、「あんなところに負けるはずがない……」という油断もあったにちがいない。
天満屋は今年もしぶといところをみせつけた。前半は完全にレースを支配し5区ではひとたび4位に落ちたが、最終的は3位をキープした。今年も安定した力を発揮したといえる。
4位のワコールも確実にチーム力がついている、今回はもはや福士ひとりではないことを実証して見せた。そのほか健闘したといえるのは5位のパナソニック、6位の豊田自動織機も若い有望な選手が多いだけに将来性を感じさせるものがあった。
期待はずれの第1はスズキである。予選の淡路島駅伝では今回3位の天満屋を1分近くちぎっての圧勝だっただけに本番でも期待が高まっていたが、全般的にみて終始リズムを失っていたのが惜しまれる。京セラはやはり3区のブレークが大きかったようである。
4連覇を逸したからいうのではないが、一時代を築いてきた三井住友海上も、そろそろ渋井、土佐に勢いがなくなってきており、一方において、ワコール、豊田自動織機、パナソニックなどが台頭しつつある。長く王座にあった三井住友海上に翳りがみえた今、女子駅伝も群雄割拠に時代に入ったといえそうである。
|
|
|
|
|
|
|
出場チーム&過去の記録 |
|
|
関 連 サ イ ト |
|
|
|