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モノをいった伝統の力、駒澤の復活鮮やかに!
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(2006.11.07) |
たのもしいキャプテンの誕生!
競技スポーツにはかならず勝敗の分岐点になるターニングポイントがある。後にふりかえれば、かならず「あの一瞬の、仕掛けが流れを変えたんだな」とか、「あの一球がすべてだったな」というように勝負の分かれ目になるキーポイントが見つかるものなのである。
本大会の駒澤にそくしていえば、それは4区の安西秀幸の冷静な判断ではなかろうか。勝機というものを的確にとらえ、果敢に攻めたあの走りこそが駒澤復活劇にむすびついたのである。
3区を終わって、トップをゆく日大を駒澤が急追する展開になっていた。駒澤は2区をおわって32秒あった日大との秒差を3区の池田宗二が詰めて8秒差まで迫ったのだが、このときもまだレースのイニシャティブはいぜん日大がにぎっていた。
4区の安西秀幸はトップをゆく日大の土橋啓太との差をゆっくりと詰めて、3.5qで背後にピタリと張りついた。ところが……である。両者が牽制しあったというわけでもなかったろうが、5q手前で東洋大の川畑憲三と中央大の宮本竜一が追ってきて、トップ集団になってしまったのである。
むしろ追ってきた東洋大の川畑が引っ張る展開になったのだが、安西はあわてるそぶりをみせなかった。集団のなかで力をためていたというべきか。かくしてトップ集団はたんたんと距離を重ねた。誰ひとりとして仕掛けようとしない。あるいは中継所まえでスプリント勝負になるのか……と思いきや、7qすぎてレースはやにわに動いた。
7.6qすぎだった。駒澤の安西が集団を割ったのである。4区は14q区間だから、ちょうど半ばをすぎたばかりである。半分もの距離を残してのスパートにライバルたちはきっと虚を突かれたのだろう。誰も追ってゆこうとしなかった。
駒澤と2位集団との差はじりじりとひろがり、10qではおよそ10秒あまり、ようやく東洋大の川畑が追い始めるが、安西はさらにギヤーチェンジでペースアップ、差はみるみるひろがってゆく。
第3中継所ではトップ駒澤と2位の日大との差は37秒、レースの主導権はここで完全に勢いを得た駒澤の手に落ちたのである。
安西は集団のなかでじっくりと力をたくわえ、勝機とみるや、果敢に攻めた。出雲での好調さをそのまま持ち越していたとしても、瞬時のひらめき、冷静な勝負勘にはみるべきものがあった。いかにもキャプテンらしい働きである。
戦国駅伝? さながらの第1区
どこが勝ってもおかしくない。戦国駅伝……というありふれた、手あかにまみれた単語がつかわれた。群雄割拠といえばカッコがいいが、そうではなくて、正直なところ、ドングリの背比べという表現がぴったりくる。ダニエルやモグスがあんなに目立つようでは、昨今の大学レベルは、残念ながら総じて小粒になったとみなければなるまい。
1区は主力の各チームともに慎重な立ち上がりだったが、それゆえに波乱が起きたというべきか。出雲では自重したのが災いしたのか、結果ブレーキとなった日体大の鷲見知彦のことを言っている。失敗の教訓を活かして、今回は果敢にとびだすかと思いきや、集団にまみれてネコのようにおとなしくしている。最大の持ち味を殺して、活きる瀬などあろうはずがなかろう。そんなふうな思いで、なりゆきに注目していた。
1q3:07秒のペース、ゆったりとしている。2.3qで第一工大の中野良平が前に出てくるが集団はゆるがない。たがいに相手の様子をうかがいながらの展開である。5qをすぎても有力校はすべて集団のなかにいる。ようやくペースがあがりはじめたのは8qぐらいだったろうか。1人、またひとりと脱落しはじめる。前半は先頭に首を出していた明治も落ちてゆく。
10qは29:58……。と、懸念したとおり日体大の鷲見知彦が苦しそうにあえぎはじめ、遅れ始めたのである。出雲の二の舞、同じ失敗を二度も繰り返して、早くも戦線から脱落である。自分のペースで積極的に飛び出してこそ力を発揮する選手である。持てる力を溜め殺してどうするのか。
駅伝の1区の攻防は、勝負への色気たっぷりの思惑がからんでいるだけに、いつ見てもおもしろい。13qでは初出場の城西大・高橋優太、そして立命館大の森田知行が先頭にとびだしてくる。13.6qでは森田が仕掛けぎみにスパート、関東勢にひと泡ふかせたと思われたが、タスキ渡しの直前で高橋が逆転したらしく、テレビの画面では城西がトップ通過していた。
トップの城西から14位の日大まで、その差は21秒、主力はいずれも好位置をキープしたが、日体大だけが50秒もの遅れをとった。
駒澤と日大、一騎打ちムードがみえてくる
前半のポイント2区もめまぐるしく順位が動いた。一瞬たりとも眼がはなせなかった。1区では11秒遅れの6位につけていた第一工業のムタイが1.1qでひとたびトップに立ったが、後方から日大のダニエルが1q=2:40のハイペースで追ってくる。1.7qでは11人抜きで3位まで押しあげ、2.3qではとうとうムタイもとらえ、13人抜きでトップに立ってしまうのである。
15位と出遅れた日本体育大もインカレチャンピオンの北村聡が追撃を開始するが、勢いというものがまるでちがいすぎる。ダニエルは5q=13:47のハイペース、中間点を18:32で通過、2位との差をどんどんとひろげていった。
日大のあとは、第一工業がつづき、大東、順天、亜細亜、駒澤、東洋、中央などが3位集団を形成していたが、8.7qで中央がこぼれ落ち、11.9qでは大東が遅れていった。しぶとく粘ったのは3位にあがってきた東洋である。出雲のときもそうだったが、東洋は着実に力をつけているようである。。
昨年はサイモン、今年はダニエルで日大が首位を奪ったのは予定通りだったろう。ここでひとまずはレースの主導権は日大に落ちたのである。
3区は9.5qと繋ぎの区間といえるが、中央の上野裕一郎が出てくるというのだから、ここでもまた眼が離せなかった。
2区を終わってトップと1分28秒遅れの8位にあまんじていた中央、上野裕一郎がタスキを受けるやいなや大東を抜いて追撃を開始するのだが、前のほうでは激しいツバ競り合いがはじまっていた。
トップをゆくのは日大の秀島隼人、2位の第一工大は集団をなして追ってきた東洋(今堀将司)、駒澤(宇賀地強)、順天(井野洋)、亜細亜(菊池昌寿)にのみこまれてしまう。
集団からこぼれてきた第一工大を6.5qで中央の上野が捕らえて6位まで浮上、8q手前では2位集団から落ちてきた東洋、順天をとらえて4位まで上がってくるのである。
日大・秀島は1位をキープしたが、駒澤の池田とは9秒差、そこから5秒遅れで亜細亜の菊池、そして3秒遅れで中央の上野がつづき、トップの日大から16秒のあいだに、駒澤、亜細亜、中央の3校がつづくという緊迫した形勢になってきたのである。
にわかに乱戦ふくみになってきて、ターニングポイントの4区を迎えるのだが、日大の走者は土橋啓太である。5000mも持ちタイムを比較すると、逃げる土橋は13分台、追う駒澤の安西秀幸は14分台、まだまだイニシャティブは日大にあった。
ところが……。計算通りにゆかないのが駅伝である。冒頭でのべたとおりの顛末になって、日大と駒澤はここで攻守逆転してしまうのである。
勝負どころの中盤で攻めた駒澤に凱歌
トップに立った駒澤はしぶとかった。5区は1年生の高林祐介、日大の松藤大輔の区間1位の走りで猛追されたものの、なんとかしのぎきったのが大きかった。高林は松藤に6秒差まで迫られたのだが、自身も区間3位の成績だから、決して悪いできではなかったのである。
追われたものの抜かせなかった1年生の心意気がタスキを通じて伝わったのだろう。駒澤6区の平野護は、これぞ駒澤の伝統という走りできっちりと応えた。日大の笹谷拓磨が追ってくるが、これをがっちりと受け止めて、けっして前にはゆかせない。息つまるような併走状態が3q、4qとつづいたが、昨年もこの区間で1位を獲得している平野は自信にみちていた。4.8qといえばまだ中継点まで7.5qも残しているのだが、ここでも平野は安西と同じように早仕掛けに出た。差はじりじりとひろがった。笹谷は追ってゆけなかったのか。かくして日大の連覇はここで完全に費えたのである。
6区を終わって駒澤と日大との差1分10秒、7区終了時点では2分8秒、そしてアンカーにモグスを持つ山梨学院とは7分24秒という大差がついてしまい、駒澤の制覇はここで動かしがたいものとなった。
駒澤の7区は3人目の1年生・深津卓也だったが、良循環するリズムと時の勢いにのって快走、区間賞をもぎとるというオマケまでついた。そうなれば駒澤のアンカー・堺晃一は余裕をもってゴールまでタスキを運んでゆけばいい。
日大のアンカー・福井誠も意地をみせた。ひたむきに前を追って行く姿には清々しいものがあった。長い直線では1号車の姿がみえたはずである。勝負はすでに8区をおわった時点で決している。にもかかわらずひたすら追わねばならない者の胸のうち、いったい何をよりどころにしていたのだろうか。
駒澤のアンカー・堺の顔は最後の上り坂でさすがに苦しげにゆがんだが、足どりにはゆるぎがなかった。勝者をむかえる伊勢神宮の表参道、両側は幾重にも人の波がゆらめいていた。脈打って聞こえてくる大歓声に迎えられた堺は白い歯を見せ、両手を高くあげてゴールテープにとびこんでいった。
最後まで熾烈をきわめたシード権争い
長丁場の最終区はシード権争いも熾烈をきわめ、最終結果に「泣く者」「笑う者」、くっきりと明暗をわけた。
昨年と同じように山梨学院は最終区のモグスの快走のみで最後に笑った。7区を終わって山梨学院はトップの駒澤からは7分24秒も遅れていたが、シード圏内の亜細亜までは4分13秒で、まだまだモグスなら射程距離にあった。
モグスの3qの入りは8分12秒……、5qでは3人抜きで8位まで浮上、早稲田の渡辺康幸が11年まえにマークした区間最高のペースを上回わる勢いで噴かしつづける。11kmすぎでは、7位の日体大保科光作をとらまえた。保科の走りは悪かったというのではない。事実かれはモグスにつづいて区間2位の記録を残している。だがそんな保科とは登載しているエンジンがまるでちがうかのように、モグスはあっさりと保科のかたわらをすりぬけていったのである。さらに12kmすぎには亜細亜の山下拓郎を音もなく交わしてシード圏内に突入、15q手前では5位をゆく東洋大・山本浩之までもとらえ、11位から6人抜きで5位まで順位をあげたのである。
モグスの前方では中央の山本亮が粘りの走りを発揮、7区では2位の東洋を交わして2位に浮上、背後からは順天堂の今井正人がひたひたと追ってくるという展開で、3位以下の順位は中央、順天、山梨……で、最後の椅子を亜細亜と日体大が争うかたちになったが、日体大の保科が最後にキャプテンらしく意地の走りでなんとか6位にもぐりこんだ。
7区をおわった時点で東洋大は2位、亜細亜は6位につけていたが、最終区で順位をまもりきれれずにシード圏内からこぼれおちて泣く結果に終わってしまったのである。
混戦ムードの箱根、サプライズがあるのか?
優勝した駒澤大学はスーパーエースこそいなかったが、全メンバーが持てる力を存分に発揮した。総合力が活きる展開になったのは、誰1人としてミスをしなかったからだろう。安西と平野が勝負強さを発揮、3人の1年生がすべて区間3位以内でまとめたのが大きかった。昨年は無冠の終わり、崖っぷちに立たされて、はじめて伝統の力がよみがえったとみるべきか。
日大は2位に甘んじたが、駒澤とほとんど力の差のないところにいる。今回はたまたまリズムが悪かっただけである。箱根でのは巻き返しは十分期待できるだろう。
中央大はエースの上野裕一郎が万全でなかったものの、終始上位をまもり、最後はしぶとく3位をもぎとったあたりは、さすがというべきだろう。
4位の順天堂もベストメンバーではなかっただけに、箱根ではさらなる底上げが期待できそうで、今年は不気味さが漂う存在である。
充実さがきわだつのは東洋大である。出雲で3位を占めた今年は好調さがきわだっている。本大会も最終区で8位に落ちてしまったが、終始2位〜3位をキープした地力はあなどりがたいものがある。箱根の覇者・亜細亜も距離がながくなれば台頭してくるだろうが、今年は東洋からも眼が離せない。サプライズがあるとすれば東洋か順天あたりかもしれない。
日本体育大は力がありながら、ここいちばんで伸び切れていない。きっとチームとして大切な何か欠けているのだろう。山梨学院は今年もモグスひとりのチームだけに調子の波に乗れば昨年のようなこともあるが、逆にシード落ちのケースもあるだろう。それならばむしろ10位におわった城西あたりのほうが箱根では上位争いにからんでくるやもしれない。
関東の大学以外では第一工業大学が9位と今年はやや迫力を欠いた。あとは第1区で健闘した立命館が14位、京都産業大学が16位……。格差はだんだんと大きくなるようで「打倒関東勢!」というかけ声もむなしくひびく。
モグスの活躍、単純によろこべないワケ!
それにしても……。全日本大会というものは、いったい、何なんだろう。出雲で圧勝した東海が出場していないのだから、大学日本一を決める大会とはいえないのである。東海が昨年につづいて今年も予選であえなくやぶれてしまった。うがったみかたをすれば、全日本を軽くみている証左ではないのか。ハナから日本一を決める大会などとは思っていないのである。 予選のありかたを再考するか、あるいはその年の出雲の優勝チームは無条件で出場させるようにしたらどうだろうか。
個人的にみて今回も際立ったのは山梨学院のモグスである。8区ではいまや伝説化している早稲田の渡辺康幸の区間最高記録(59分59秒=27回大会)を11年ぶりに更新してみせた。
たしかにモグスの走りは圧巻だったが、それを単純に喜んでいいのだろうか。モグスといいダニエルといいい留学生の活躍が目立つ現在、かれらは留学生だから、負けてとしてもしかたがない……などと、留学生を別格にまつりあげる傾向が蔓延しているように思えてしかたがないのである。
もういちどよく考えてみなくてはなるまい。今回モグスが誰の記録を更新したのか。それは同じ留学生の記録だったのか? 否である。つまり……。11年まえには現在のモグスに匹敵する日本人ランナーがいたのである。そこから考えて、最近の選手は総じて小粒になったと言っている。
箱根を走ること、あるいは箱根のスターになることが最終目標ではないはずである。駅伝ファンとしては、そんなもちっぽけな目標で満足してもらってはこまる。世界の舞台に飛び立っていって、互角に渡り合ってほしい。駅伝はそのワンステップにすぎないのである。
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出場チーム&過去の記録 |
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関 連 サ イ ト |
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