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マラソンの延長に駅伝があった!
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(2007.1.05) |
変身? 佐藤敦之! 気負わず、力まず、7位から一気に大逆転!
まるで大地を吹き抜ける疾風とでもいうべきか!
ものすごいピッチを刻む佐藤敦之の走りにほれぼれしてしまった。上半身の力がすっかりぬけて、四肢がリズミカルに躍動するさまが小気味いい。かつてマラソンでは期待されながら、あまりに肩に力がはいりすぎてあえなく失速、なんどか期待を裏切った。そんな佐藤とはまさに別人というべきであった。
佐藤敦之といえば、やはりエース区間の5区がふさわしい。もはや絶望的といもわれる位置からでも、猛然と追い上げてくる。あきらめるという語句はかれの辞書にはないらしい。そんな気迫のランナーである。中国電力が初優勝した48回大会では48秒差をひっくりかえした。49回では1分37秒差を挽回してトップのコニカミノルを8秒差まで追いつめた。
だが……。今回は2分17秒ものハンディーを与えてしまった。それも相手は優勝候補の筆頭といわれる日清食品である。3強にあげられたコニカミノルタは40秒あまり後方に遅れているが、トップをゆく日清食品の5区のランナーは、世界選手権にも出場したこともある大島健太である。
タスキを受けるやいなや佐藤は猛然と追撃を開始した。大塚製薬、カネボウ、トヨタ紡織……、相手にならびかけると、そこでさらにスピードアップして、相手を一瞥することもなくかたわらを一気にすりぬけてゆく。5qでトップをゆく日清食品とのタイム差を1分27秒も詰めた。
前半は3位につけていたホンダの山口健司を音もなく置き去りにすると、あとは2位旭化成とトップをゆく日清食品だけとなった。
12.2qで旭化成をとらえた。5000mを13分台というハイペースで入っているというのに、佐藤のピッチは後半も衰えることはなかった。とうとう14.7q地点で日清食品の大島健太の背後にしのびよった。そしてスピードをあげて、ならぶまもなく一気に抜き去ってしまった。
佐藤の毒気に当たったというわけではあるまいが、3位と健闘していたホンダの山口は区間の後半になって大ブレーキ、なんと30位まで位を落として、明暗をくっきりわけてしまった。
かくして中国電力は5区の佐藤でトップを奪い、ライバルの日清食品に22秒、コニカミノルタに1分53秒もの大差をつけて、優勝を決定的なものにした。佐藤の激走で6区の尾崎輝人、7区の尾方剛は余裕をもって、ゴールまでタスキを運んでいったのである。
見ごたえ十分 2区の攻防 秋葉啓太の快挙!
区間距離が変更されてから、1〜3区はトライアル、4区であらためて仕切り直しでヨーイドン……、そういう駅伝だと言われている。2区の最長区間をはさんで1区と3区は助っ人外人選手の競演となるからである。
今回1区は例年のように外人選手たちが主導権をにぎった。スズキのM・マサシ、小森コーポレーションのJ・ダビリ、NTNのJ・ムワンギが引っ張る展開ながら、2q=5:52というスローですすみ、ペースがあがったのは4qあたりから、5qのラップは14:19であった。ペースアップについてゆけずに7.3q付近でトヨタ九州の大津が脱落して速くも圏外に去った。
9qでマサシ、ダビリ、ムワンギが集団を割って飛び出し、後続の日本選手をコニカミノルタの松宮隆行がひっぱる。
外人選手同士の区間賞争いは10qでマサシとムワンギがスパートしてマッチレースとなったが、最後は駅伝巧者のマサシが5秒差をつけて中継所にとびこんでいった。
最長区の2区は順位の変転という意味では、最も見ごたえがあった。
スズキの中川拓郎とNTNの北岡幸浩がトップ集団、小森コーポレーションの秋葉啓太がつづき、第2集団はコニカミノルタの太田崇之、自衛隊体育学校の松村慎二、ホンダの堀口貴之、そして中国電力の油谷繁、日清食品の徳本一善、カネボウの瀬戸智弘、旭化成の佐藤智之、大塚製薬の岩佐敏らが第3集団をなして追ってゆくという展開であった。
トップ争いに動きがあったのは6qすぎ、NTNの北岡がピッチの上がらないスズキの中川をとらえ、後ろから小森コーポレーションの秋葉がじりじりと追ってくる。秋葉は9qで中川をぬいて2位にあがり、10qのラップは28:38、そして勢いに乗じてとうとう10.5qでトップの北岡を捕らえてしまう。
第2集団、第3集団も後半になって動きが活発になり、14.3qでとうとう第3集団が第2集団に追いついてしまい、17,6qでは落ちてきたNTNをとらえて9人の大集団となる。
集団の主導権は油谷繁がにぎっていた。19q付近から松村慎二、大塚製薬の岩佐敏弘あたりが仕掛けるのだが集団は容易にくずれない。20.7q付近で、こんどは旭化成の佐藤がスパート、油谷繁が追い、カネボウの瀬戸がつづくというぐあいであった。
熾烈な2位争いを尻目に秋葉啓太は53秒の差を付けて、小森コーポレーションは史上初めてトップに躍り出るのである。
驚異的! ゲディオン ケタ外れの走力!
3区はいかにも外人選手たちの指定区にふさわしく,今回も12人もの登録があった。注目はなんといってもマサイ族出身として話題をあつめている日清食品のG・ゲディオンであった。並はずれたその走力は、すでにして東日本実業団駅伝や千葉国際駅伝で実証すみである。
1分01秒遅れの6位でタスキをうけたゲディオンは、今大会でも持ち前の大きな走りでぶっとんでいった。1qですでにして2位まで順位を押し上げ、3q通過が7分40秒というのだから、中距離ランナーそこのけのスピードである。
そして3.5qでは小森コーポレーションの加藤剛のかたわらを風のようにすりぬけて行ったのである。5qの通過が13分11秒……。かくして本大会の本命とういわれていた日清食品は、ここでようやくトップに立ったのである。
ゲディオンの勢いはその後もいっこうに衰えることなく、10q通過が26分31秒、区間新記録を上回るペースで突っ走った。20歳にして、すでにしてM・マサシをしのぐ大器ぶりを発揮、そのケタ外れの走力は驚異的というべきで、順調にゆけば、世界の檜舞台で活躍するランナーになるだろう。
ゲディオンの後ろでも、外人部隊の競演がつづき、とくに目立ったのはトヨタ紡織のJ・カリウキで13位から追撃、10.5qではカネボウをとらえて3位にあがっていた旭化成をとらえ、11人抜きで3位まであがってきた。
3区を終わって、1位の日清食品から10位の九電工まではのタイム差は2分47秒、日清食品を追うのは1分30秒遅れでトヨタ紡織、健闘の旭化成が1分32秒遅れ、さらに1分44秒遅れの4位でホンダが続いていた。
コニカミノルタは松宮祐行をここに配していたが、外人選手たちのつばぜりあいに弾きとばされたのか、17位と順位を7つも落としてしまい、4区のヨーイドンを前にして大きなハンディを背負ってしまった。
4区は日清食品の丸山敬三が首位をまもったものの、後続を突き放すことができなかった。それが結果的に5区以降で波乱を呼ぶことにつながっていく。
旭化成がここでも健闘して1分差の2位まであがってきた。さらにホンダが秋山羊一郎が区間1位の快走ぶりで旭化成からわずか1秒遅れの3位まで順位をあげてくる。
日清食品から2分17秒遅れの7位に中国電力、2分58秒遅れの10位にコニカミノルタという3強の位置関係で、今大会のクライマックスというべき佐藤敦之が登場する5区を迎えたのであった。
古豪・旭化成がみごと復活!
中国電力の勝因としては先ず佐藤敦之の快走があげられるだろうが、メンバー全員がそれぞれ安定した力を発揮したこと、さらに何よりもミスをしなかったこと……などがあげられるだろう。
大健闘したのは旭化成である。21度という最多勝をほこる古豪だが、最近は長く低迷していた。前回8位にあがってきて、ようやく古豪復活の兆しがうかがえたが、今回は奇しくもそれを実証づける結果になった。きっかけをつくったのは2区で区間2位と快走した佐藤智之である。12位から一気に3位へと浮上、大躍進の流れをつくった。3区以降はつねに2位〜3位をキープするというふうに終始安定した闘いぶりで7年ぶりに2位に返り咲いた。
中国電力といい、旭化成といい、マラソンと駅伝を両立させてきた。そういう意味では日本の実業団システムの申し子というべきチームである。事実、中国電力は油谷繁をはじめとして、2時間10分を切るマラソンランナーがずらりと顔をそろえている。五十嵐範暁、尾方剛、梅木蔵雄、佐藤敦之……。旭化成も小島宗幸、小島忠幸、渡辺共則、佐藤智之と4人を数える。まさにマラソン王国といにふさわしいチームなのだ。
マラソンが強ければ、駅伝も強い……。かって旭化成の宗茂監督は「駅伝はマラソンの延長にあるのではなくて、マラソンの延長に駅伝がある」と言った。もともと駅伝という競技そのものが冬場のマラソンのトレーニングのひとつとして生まれたものなのである。 まずマラソンがありき……。旭化成のそういうチームの方針は現在も変わることない。現実にチーム内にはマラソンをめざす多くの選手がいる。たとえば2区の快走で復活の狼煙をあげた佐藤智之もそのひとりで、マラソンで世界選手権代表をめざしている。
マラソンに軸足を置いて、駅伝をとらえているチームが上位を占めたことは、日本の長距離界にとっても喜ばしいというべきである。
戦力拮抗でひとつのミスが命取り!
優勝候補の筆頭といわれた日清食品は旭化成にも敗れて3位、悲願の初優勝はならなかった。
3区のゲディオンでトップを奪い、ライバルのコニカミノルタ、中国電力に2分以上の大差をつけ、中盤ではまさに必勝パターンにもちこみながら、あえなく敗れ去った。なぜなのか? 5区で頼みとする大島健太がなんと区間22位、まさかのまさかの……ミスが命取りになった。
3連覇を逸したコニカミノルタは2区と3区がすべてだった。仕切り直してヨーイドンの4区までにあれだけ離されては、すでにしてその時点で終戦を迎えている。コニカミノルタに関して、総じて言えることは、最強を誇ってきたメンバーにも、金属疲労が募りつつある。主軸になってきた松宮兄弟にしても、坪田智夫にしても勢いというものがなくなってきている。そろそろ選手の新旧交替の時期が切迫しているようである。
健闘したのは5位のトヨタ紡織、6位に食い込んだ大塚製薬、7位にとびこんで12年ぶり入賞の安川電機、15年ぶり入賞の8位・日産自動車あたり……。
逆に期待はずれはホンダ、富士通、トヨタ自動車、トヨタ九州……。最近の駅伝の傾向を最も象徴しているのは、たとえばホンダのケースだろう。4区まではトップ争いにからみながら、5区のブレーキで21も順位を落としてしまった。ミスがひとつでもあればそれで終わってしまう。トヨタ自動車とトヨタ九州は1区で消え、富士通は2区の帯刀秀幸がブレーキで28位と15も順位を落としてしまった。各チームとも戦力が拮抗しているだけに、ひとつの綻びが致命的になるのである。
今年の元旦は天候にめぐまれ、群馬県の名物というべき、赤城おろしの強い風が吹かなかった。風がなかった割には走破タイムがちょっと喰い足りないと思うのはぼくだけだろうか。もしかしたら、ゲディオンのようなスピードランナーの登場とは裏腹に、総体的にみてレベルが低下しているのかもしれない。
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