Index ' ' '

プロローグ
出雲大学駅伝
箱根駅伝予選会
東日本縦断駅伝
全日本大学駅伝
東日本実業団女子
東日本女子駅伝
国際千葉駅伝
全日本大学女子駅伝
全日本実業団女子
全国高校駅伝
全日本実業団駅伝
箱根駅伝
都道府県女子駅伝
都道府県男子駅伝
横浜国際女子駅伝

出場チームHP ' ' '




  関連HP ' ' '




  駅伝時評 ' ' '

Back Number

駅伝ひとくちメモ

掲示板へ

2000-2001 エピローグ

 20世紀から21世紀へ 
▼ 新時代の息吹がひしひしと! ▼


男女とも若い力の台頭で
活気あるレースが相次いだ!

 3月11日の名古屋女子マラソンを最後にして、今シーズンのロードの日程はすべて終了した。20世紀から21世紀へと橋架ける今シーズンは、駅伝に関するかぎり、いかにも新時代の到来を象徴するにふさわしいレースが相次いだ。
 とくに女子はシドニーオリンピックでマラソンを制した高橋尚子が一躍国民的なスターになり、高橋効果によってロードのレースがもりあがった。土佐礼子、渋井陽子、松尾和美などマラソンのニュースターが相次いで登場してきた。なかでも大阪国際で初マラソンの世界最高をマークした渋井陽子のデビューは鮮烈だった。
 男子マラソンはシドニーで惨敗して長距離三流国まで墜ちたが、藤田敦史(富士通)が日本最高記録を更新して福岡国際を制覇、同じ24歳の油谷繁(中国電力)が琵琶湖を2時間7分台の好タイムで勝った。東京国際を制した西田隆維も23歳、若手がにわかに台頭してきて、世代交代の様相がみえてきた。
 若手による新しいエネルギーの発露が、今シーズンの駅伝をいっそう活気あるものにしたようである。マラソンが強ければ駅伝も強い……。実業団では奇しくも男女ともにマラソンで実績をあげた選手をかかえるチームが圧倒的な強さを発揮したのが印象的だった。


男女ともに新勢力が新しい歴史をひらく
ー実業団ー

 実業団の女子では関東地区予選で圧倒的な強さをみせつけた三井海上が余勢を駆って岐阜の全日本も圧勝、女子の新しい王座についた。今や日本の看板ともいうべき土佐礼子、渋井陽子という2枚のエースが期待通りに快走、まったく危なげない戦いぶりだった。とくに渋井陽子は駅伝でも今期は絶好調であった。東日本女子の9区(10K)、東日本実業団の3区(10K)をともに区間新をマーク、さらに全日本実業団の3区(10K)でも区間賞を獲得、最長区間を3度走って3度とも区間賞にかがやいた。今シーズンの女子のMVPは文句なしに渋井陽子である。
 三井海上の台頭によって「沖電気・東海銀行」時代は終わった。当面は三井海上を中心にして、2着にとびこんだスズキなどの新勢力が中心になって、21世紀の新しい歴史が描かれてゆくだろう。両チームの来シーズンを注目してみまもりたい。

 実業団の男子については注目すべきシーズンであった。昨年、富士通の制覇によって長く続いた旭化成、鐘紡、ヱスビー食品の3強時代は幕をとじた。今シーズンは旧勢力に引導を渡した新勢力の真価が問われる一年であった。
 全日本実業団駅伝は、今シーズンから総距離が86.4Kから100Kに延長され、各区間の構成も大幅に変更された。最長区間も従来の18Kから22Kになり、スピードとスタミナによって駅伝日本一を競うにふさわしい大会となった。
 今年の大会は例年にないほどの強風下で行われた。快晴にめぐまれたものの、強風が吹きすさんでいた。コースが変更になって最初のレースゆえに、各陣営ともに1〜3区に主力を投入してきた。そのせいで大勢は3区までに決してしまい、昨年の覇者・富士通と今年になって急上昇したコニカのマッチレースになってしまった。最終的にはコニカが富士通の追撃を断ったが、もしかしたら強風が明暗を分けたのかもしれない。女子の三井海上のケースと同じように、予選を圧倒的な強さで制したコニカの勢いは本戦でもとまらなかった。
 かっての覇者・旭化成は8位、鐘紡は9位に沈み、ヱスビー食品は予選にも出てこられなかった。かわってコニカ、富士通、中国電力が上位を占め、男子駅伝もまた新しい時代に突入した感がある。


やはり箱根はおもしろい!
 ー大学駅伝ー

 大学駅伝では順天堂大が出雲、全日本、箱根の学生三冠を獲得した。一昨年、三冠達成を目前にしていた駒沢の足もとをすくった順天堂大が、同じ復路で今年は逆に駒沢にリベンジされそうな局面もあったものの、終わってみれば圧勝であった。層の分厚い三年生の力が安定していて、まったく危なげないレースぶりだった。
 大学駅伝3レースのなかで、レースとして面白かったのは、やはり今年も箱根駅伝だった。今回も昨年につづいて往路の箱根山中でものすごいデッドヒート、今年はすざまじい突風が吹きすさぶなかでのはげしいトップ争いが演じられた。中央、順天堂、法政の固唾をのむような激しい闘志のぶつかりあいは、見応えがあった。
 中央と順天堂が往路優勝にからんだのは順当だが、法政が一枚加わってきたのには驚きだった。三強の一角とまでいわれた山梨学院大があわやシード落ちのピンチに見舞われ、早稲田はとうとうシード落ちした。そんななかで予選会あがりの法政の健闘は特筆ものだった。
 中央大の台頭があったものの、かつての王者・山梨学院は戦力低下傾向にあり、前評判の高かった大東文化大は意外に伸び悩んでいる。かくして順天堂と駒沢の2強時代はまだまだ続きそうな気配である。
 優勝争いとは無縁のところでトピックをあげれば、鹿屋体育大の永田宏一郎の爆走である。出雲と全日本に出場した永田は今年も孤独な戦いでひとり気を吐いていた。出雲では6区に出場し、区間新記録の快走で神屋伸行や高橋謙介という箱根のスターを一蹴、伊勢路の大学選手権では1区に出場、マヤカの区間新記録を一気に30秒あまりも更新して、関東勢をまとめて食ってしまった。

 女子の大学駅伝といえば、これまで高校駅伝と実業団駅伝との谷間という位置づけあった。高校駅伝の有力選手は、大学を素通りして実業団にいってしまう。それゆえ今ひとつ盛りあがりを欠くきらいがあったが、昨年あたりから様相が一変した。高校生のスター選手たちの進路に変化があらわれてきた。たとえば筑波大に進んだ藤永佳子のように、大学進学も選択肢のひとつになってきて、全体的にレベルアップされ、観るレースとしてもおもしろくなってきた。
  昨年の覇者・筑波大、一昨年の覇者・城西大に新興・立命館が割り込んできたが、1年生の活躍で城西大が混戦から抜け出した。3強にくわえて昨年につづいて名城大が安定した力を発揮して4位にくいこんだ。今後は要注目であえる。
 企業スポーツの退潮傾向があらわれるにつれて、女子の大学駅伝がにわかに活発化してきたのは、いかにも皮肉な現象というべきだろう。


悲願の優勝で20世紀の最後をしめくくる!
 ー高校駅伝ー

 高校駅伝は男女ともにつねに優勝候補にあげられながら、いま一歩およばずに涙をのんできた大牟田と立命館宇治が、20世紀の最後最後で悲願を果たした。
 男子は昨年につづいてトラック勝負になった。3区から最終7区まで連覇をねらう仙台育英と大牟田のマッチレースとなり、激しくトップを奪い合った。最後に大牟田がわずかに上回ったのは勝負に対する執念のせいだろう。大牟田は毎年のように優勝候補にあげられながら、8年も苦杯をなめてきた。区間賞がひとつもない優勝……それはあくなき勝負へのこだわりの証左というものだろう。
 女子はこのところ諫早、須磨学園、立命館宇治の3強時代がつづいている。昨年、スーパーエースの阪田直子を故障で欠いて、諫早にやぶれた立命館宇治が、文字通りラストチャンスを生かした。勢いからゆけば須磨学園に一日の長があったが、流れを変えたのは阪田の執念というべきだろう。順番からゆけば、次回は須磨学園ということになるのだが、果たして……。


「実業団システム」に大きな転機が!

 今シーズンのロードをかえりみると、良くも悪くも新世紀にふさわしい大きなうねりがくっくりとみえてきたように思う。
 質量ともに世界レベルの日本女子にくらべて、3流国まで墜ちた日本男子が若手の台頭によって、ようやく目を覚ました。高橋尚子をはじめとする逞しい女子に刺激されたわけでもないだろうが、一気に世代交代が進み、いくらか明るさがみえてきた。
 質的にも量的にも今や世界のトップにのぼりつめた日本女子では、高橋尚子がプロ宣言をするなど新しい潮流がうまれているが、その一方では女子陸上界で一時代を画したリクルートの休部(2002/9/30付)など、右肩あがりに成長してきた女子マラソン・駅伝の前途にもいくらか暗雲がたちこめてきた。
 リクルート・ランニングクラブ(RRC)の創部とともに歩んできた監督の金哲彦は、自身のホームページで、休部にいたる遠因について次のように書いている。

「リクルート事件とバブル崩壊の影響は、リクルートという会社の「性格」を大きく変えていきました。莫大な負債、不動産を中心とした資産の激減、ダイエーへの株式譲渡と買い戻し、株式上場の準備等のために、必然的に、経費を削減し、雇用を控え、利益を追求することが最優先課題となりました。不況下にあってもリクルートは利益を伸ばし続けてきましたが、このような構造変革の流れは逆戻りすることはありません。」

 実業団チームというものは、いわば企業の部活である。経理上でいうところの「福利厚生」の枠内にあるから、金哲彦氏が指摘するように、おのずと限界というものがある。事実、バブル崩壊以降、実業団スポーツは曲がり角に立っている。たとえば女子バレーボールでは、あのユニチカや日立でさえもあえなく姿を消していった。
 日本女子の長距離の今日をきずいたのも、まちがいなしに「企業スポーツ」の力である。女子の長距離強化の歴史は20年まえの1981年にはじまっている。ロス・オリンピックに女子マラソンが正式種目に採用されるようになり、選手強化のひとつとして「全日本実業団駅伝」がもうけられたのである。それから20年、「実業団システム」という日本独自の仕組みによって日本女子の長距離王国ができあがったのである。
 シドニ・オリンピック金メダルの高橋尚子、土佐礼子、渋井陽子、松尾和美をはじめとする世界で戦えるマラソン・ランナーたちは、「企業スポーツ」が20年かかってたどりついた到達点というべきである。世界の頂点をきわめたけれども、足もとを直視すると、陸上部の休廃部が相次ぎ、実業団による「企業スポーツ」のシステムそのものが揺らぎ始めている。それが現実なのである。
 企業システムの崩壊は、業績不振による企業の方針転換だけではなく、世界的なレベルに達した選手自身の内在的な要因も微妙にからんでくる。休部がきまったあと、クラブチームとして再出発することをきめた金哲彦は、さらに次のように書いている。

「たとえば、オリンピックなどの国際舞台で日本代表として活躍する一方で、駅伝の強豪チームとして社名を1秒でも長くテレビに映すことを求められること。あるいは、実績も、めざす目標も日々のトレーニングもまったく異なる選手たちを、同じ社員という名のもとに均等に管理すること。社員として企業に貢献し、時として個人の目標より企業の方針を優先すること……。ある時期には当然だとも思えたことも、陸上界全体がレベルアップしていく中で、その両立が難しくなりました。私たちは、企業スポーツの理想的な形を実現していきたいと思う一方で、実業団という枠組みの中での限界についても考えるようになりました。」

 プロ宣言をした高橋尚子のように世界的に名を知られるようになると、遠心力が生じるのは当然の帰結だろう。選手たちのプロフェッショナル化の願望に、「実業団システム」や関係団体がどのように折り合いをつけて支えてゆけるのか。21世紀に突入した今、そういう意味で大きな転機を迎えているようだ。(完)

    

|Home| 連 載 |電脳エッセイ|電脳エッセイ|競馬エッセイ|ゲストコーナー
Copyright(c) 2001 Takehisa Fukumoto All rights reserved.