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850キロにおよぶ長丁場を7日間61区間にわけて走る東日本縦断駅伝、もちろんテレビ中継があるわけもなく、今年もいつものように読売新聞の詳報記事による紙上観戦である。 6日を終わって埼玉がライバルの東京に5分ちかく差をつけた。さすがの東京もこれでは追ってこれないだろう。現実には勝負の流れに変化が生じていたのに、この時点でまだ埼玉の連覇を信じて疑わなかった。 ところがである。翌日の朝刊をひらいて仰天した。かつて箱根の山登りで歴史に残る快走ぶりで「あっ」といわせたあの奈良修がページの中央で両手をひろげてゴールしようとしているではないか。「東京底力 区間新4連発」「4分52秒差 奇跡の逆転」という大見出し、小見出しが目にとびこんできた。 2日目から終始、総合成績で連日首位をまもってきた埼玉、最終日になってあっさりと滑り落ちた。駅伝は何が起こるかわからないといわれる。歓喜のV奪還を果たした東京も、最後の最後にきて、ひっくりがえされた埼玉もあらてめて思い知ったことだろう。
青森をスタートするまえから、すでにしたレースのゆくえは見えていた。今年の展望は?……と訊かれれば、「東京と埼玉による2強対決……」と答えればよかった。もう何年続いた同じパターンである。最初から二者択一の世界しかなかった。 埼玉は過去いちども連覇した経験がない。だが今年はいける。発表された陣容をみたとき、そのように確信した。青東の歴史がはじまっていらいの最強チームができあがった。基礎票になる本田技研勢が充実、さらに今年は早田俊幸、平成国際大のカーニー、ムヒアという大砲が加わった。何よりも層の厚い布陣は、きっと長丁場に生きてくるとみていた。 ところが……、初日の第1区、そんな埼玉の鼻っ柱をケニアからきた22歳のガソがへし折った。新聞の大見出しは「初エキデン、ワンマンショー」、東京はそのまま流れに乗ってゴールした。埼玉の出来が悪かったのではない。期待のカーニーも早田も区間新記録の快走ぶりを見せている。各選手はそれぞれ互角の戦いをしているのだが、ゲタを履く段階では、いつのまにか負けていた。後になって考えれば、初日のレース構造が今大会の両雄対決を象徴していた。
新聞によると初日のメインタイトルは「東京V奪回で好発信」、だが2日目は東京が思わぬ失速で日間で4位に沈んだ。すると手のひらを返したように「埼玉 逆転トップ」、見出しは「V2向け区間新で勢い」と書くのだから、新聞記者というのは、楽でいいなあ。日和見で、かなりいいかげんである。 3日目は「埼玉 首位キープ」、4日目は「東京猛追、首位に肉薄」、5日目は「埼玉万全 リードひろげる」、6日目は「東京、再び追い上げ」とつづくのである。 埼玉は7日のうち5日間も総合首位に立っていた。ところが日間で東京に勝ったのはたった2日間だけなのである。残りの5日間は負けている。5日も負けながら、5日間も首位に立つことができたのは、勝った2日の貯金が大きかったからである。2日目に9分22秒もリードして、3日目は左うちわだった。4日目に2分45秒差まで詰められると、5日目には4分33秒先んじて、またまた貯金を増やした。 要するに貯金をおろして連日の負けをなんとかしのいでいただけ、最後は首が回らなくなって破綻したのである。連日首位にありながら、余裕というものはなく、つねに心理的には尻に火がついていたというのが現実だった。
埼玉の敗因は大勝した翌日に再び勝って、ダメ押しができなかったことである。勝った翌日はかならず負けている。これでは相手にプレッシャーがかけられないばかりか、かえって相手を勢いづけることになる。 埼玉陣営のそういう苛立ちが6日目に現れている。埼玉の6日目のオーダーはすごい。池谷寛之、松村慎二、早田俊幸、ムヒア、カーニー、坂田和、武本謙治、原島貴男……。今大会で実績のある選手を集結させて勝負に出たのである。6日目のこの日、ベストメンバーで貯金を殖やして、東京にトドメを刺そうと考えた。つまり最終日を待たすに東京をあきらめさせてしまおうという腹づもりだった。 ところがである。駅伝は水もの……。負けるはずがない布陣で2分27秒も負けてしまったのである。それでも、まだ5分弱の蓄えがあったが、心理的にはほとんど預金を吐き出してしまったにひとしい情況に追い込まれてしまった。こうなれば逆に相手の志気はあがる一方、埼玉の作戦はみごと裏目に出た。東京の逆転優勝の布石は、6日目にしっかり出来ああっていたというわけである。 東京の勝因はあきらめなかったことにつきる。経験のある実業団選手たちが自分の走りに徹したことで活路がひらけてきたのだろうと思う。
優勝をめぐる東京と埼玉の死闘、千葉と茨城の白熱した3位争い……。毎年、神奈川を含めた上位5チームを中心にしてレースは動くのだが、上位争いと縁のない他の各都道府県チームもそれぞれ独自の目標をもってレースに臨んでいる。実業団のトップレベルの選手から、大学生、高校生、市民ランナーまでが出場するこの大会は、むしろ地方のランナーにとっては檜舞台というべきだろう。年に一度、トップレベルの選手たちと同じスタートラインに立つことができるのである。 たとえば2日目の記事に登場する山形の佐藤勇さんは今年で19年連続出場を果たした。「青・東は自分にとって日本シリーズ」というわけで、大会出場は自分の生活スケジュールのなかに、しっかり組み込まれているという。秋田の藤原敏さんのように陸上経験者でなくても出場をめざして練習を始め、何度目かの挑戦で代表の座をもぎとった市民ランナーもいる。 かって日産自動車で活躍した日本のトップランナーのひとり、若倉和也さん(現・小森コーポレーション・コーチ)のように、第一線から退いてからも、シニアのワクで走りつづけているケースもある。 東日本縦断駅伝というのは、本当に走ることの好きなランナーにひとしく受け入れてくれる。きわめて懐の深い駅伝なのである。駅伝のすそ野をひろげるといういみで、この大会の果たす役割は大きいだろう。ダイエーグループもしっかり儲けて、協賛をながくつづけてほしい。
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