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3.6キロ付近だった。 三井住友海上のアンカー・大山美樹がスパートした。京セラの小川清美は反応が鈍い。その差はじりじりとひろがった。 三井海上が勝利への流れをつかみとった瞬間である。 勝負の流れは終始変転としていた。勝利の女神は最後の最後まで、迷いに迷っていたようである。4区から京セラと三井住友海上のガチンコ対決の様相、両チームとも一歩も退けない、近年まれにみる凄まじいレースとなった。 第5中継点ではトップが京セラ、2秒遅れで三井海上がつづいた。トップをゆく小川清美は最初の1キロを2:59、だが追っかける大山美樹は2:57秒でたちまち追いついてしまった。追いついた大山は併走にもちこみ、うまくペースダウンして、そこで一息いれた格好だが、それは故意なのか、なりゆきなのか。もし前者だというのなら、これは大変なランナーである。 アンカー勝負という状況で、タスキを受け取ったとき、大山の脳裏にふと去来したのは、まさか……の相手に足もとをすくわれた昨年の悔しさだったろう。普通ならあるいは追いつき、追い越せる相手なのに、追っても追っても背中が大きくなってこなかった。ゴールインしたあと腰折れるように崩れて流した悔しい涙、それが一年たってしっかり活きたのである。 あっさりライバルを置き去りにした大山、あとはまったくの一人旅だった。トラックにもどってきた大山美樹の顔にはさわやかな笑みがこぼれていた。苦しみぬいての王座奪還だけに、喜びはひとしおなのだろう。歓喜のあまり、まるで仔猫がじゃれているように、なりふりかまわず抱き合うメンバーの姿が、なによりもをそれをよくものがたっていた。
戦力からみて、今回もやはり分厚い戦力をもつ三井住友海上が抜けた存在だった。昨年のように「まさか……」のケースはないだろうとみていた。 三井住友に迫るのはどこか? 予選の結果からみて関東では資生堂と昨年の覇者・第一生命だが、両チームの勝負はすでに決している。北陸女子駅伝の結果からみて、今年は九州勢がかなり戦力ダウンしている。残る淡路駅伝組では、ワコール、京セラ、天満屋、UFJ銀行……。三井住友に絡んでくるとすれば、むしろ、このあたりだろうとみていたが、いずれにしてもコマ1枚が不足していて、とても三井住友には肉薄できないだろう……と、みていた。 勝負をかけてきたのは資生堂だった。エース区間に使うであろうと思われた弘山晴美を1区に使ってきたのは、明らかに前半で良いリズムをつくって、駅伝特有の流れに乗って有利な戦いをしようとしたのだろう。2区には尾崎朱美、3区にはエスタ・ワンジロ……である。三井住友に勝つには「これしかない……」と、陣営は思い切った策に出たわけだが、その積極的な姿勢は評価できる。 かくして1区は弘山晴美を中心にして、三井海上の橋本歩、第一生命の尾崎好美、ワコールの鈴木亜弥子、UFJ銀行の川島真喜子などが絡んでゆくという展開、3k=9:35というペースで進んだ。 弘山晴美と橋本歩……ベテランと新鋭の対決がなかなかみどころがあった。橋本歩は前々回はルーキながら区間賞を獲得したが、前回は積極性を欠いて失敗、結果的に三井住友3連覇への流れをつくれなかった。 昨年の轍を踏むまい……と肝に銘じていたのだろう。今回の橋本は堂々とした戦いぶりだった。相手が弘山晴美でも怯むことなく、常にレースのイニシャティブを握っていた。4.6キロで仕掛けて集団をひとたび崩し、最後は弘山とのマッチレースにもちこんだが、地力で振り切ったあたりに成長の痕がうかがえた。
資生堂は前半3区半ばまでトップを走った。陣営の作戦がみごと奏功したわけである。2区の尾崎朱美が区間賞の快走で奪首に成功したのも、1区に起用された弘山が自分の役割をきっちり果たしたからだと思う。 最大のみどころをあげればやはり3区ということになるだろう。 トップをゆく資生堂はエスタ・ワンジロ、3秒差で追う三井住友は渋井陽子、後ろからは天満屋の坂本直子、パナソニックモバイルのJ・ワンジク、さらにワコールの福士加代子が京セラの阿蘇品照美をひきつれてやってくる。はるか後方からはスズキのL・ワゴイがごぼう抜きであがってくる。 今回の3区は千葉駅伝2位になったケニア勢と日本のエースたちの対決という構図であった。エスタ・ワンジロのほかL・ワゴイ、J・ワンジク、R・ワンジル……みんな3区に出てきたのである。 併走するエスタと渋井をJ・ワンジクが23秒あった差を5,4kで詰めて、トップにならびかけてきた。渋井のキレはいまひとつで、最後はちぎられてしまった。それでも3秒差とトップとあまり差のないところでタスキを渡すあたり、さすがというべきだろう、区間賞のL・ワゴイから33秒遅れなら、そこそこ粘ったほうである。 L・ワゴイは日本育ちのケニア人ランナーだが、今のところ地力では文句なしにナンバーワンだろう。8人抜きの区間賞、スズキを一気に7位まで押し上げてきた。 注目の福士加代子は区間3位でワコールを7位から4位まで順位を上げてきたが、昨年までの爆発力には欠けていた。当人はつねに底抜けに明るく振る舞っているが、パリのショックがまだ残っているようである。 名のあるエースに混じって快走したのは京セラの阿蘇品照美である。最初から福士に影のようにくらいつき、最後は胸一つの差で交わしてしまった。1秒差で福士を上回り、区間2位はみごとというほかない。
今回のレースもトップはめまぐるしく入れ替わった。1区は三井海上、2区は資生堂、3区はパナソニックモバイル、そして4区でも激しいトップ争いがくりひろげられた。 4区で混戦から抜け出したのが三井住友海上の岩元千明、京セラの吉野恵、ふたりとも高校卒のリーキである。 パナソニックモバイルの佐々木律子をあっさり交わして、最後までびっしりと肩をならべてのガチンコ勝負である。 たがいに負けられない……という意地の張り合いで、まさに火花散る緊張感にみちていた。若い力による清々しい対決も、今回の見どころのひとつであった。 追う者の強みとでもいおうか。最後に抜け出したのは吉野恵であった。初めての全日本での区間賞、吉野にとっては飛躍の糧になるだろう。 吉野の快走をもたらしたのは、3区で福士に競り勝った阿蘇品の勢いによるものだろう。そのように考えると、駅伝という競技は奥が深いなあ……と、あらためて思う。時の勢いの流れとでもいおうか。4区でトップに立った京セラは5区でも僅差ながらトップをまもりぬいた。ハーフマラソンを中心にトレーニングを重ねている京セラは分厚い戦力を誇るチームだが、まさか、あれだけ三井住友を苦しめるとは夢にも思わなかった。 今回の京セラ躍進のモーター的役割を果たしのが阿蘇品照美である。すべては彼女の快走からはじまったのである。
最長区間の5区……。 タスキを渡し終えた三井海上の坂下奈穂美はわが身を両脇から支えるサポートの同僚にゆだねながら、顔を苦しげにゆがめ、粗い吐息とともに悲鳴に似た苦しげなあえぎ声を放っていた。5区の攻防がどれほどきびしいものだったのか、その彼女の姿が如実にものがたっていた。 坂下奈穂美はいつも走り終えても涼しい顔をしている。苦しげな顔をけっしてみせない。レースであれほど憔悴した姿を見たのは今回がはじめてである。 坂下奈穂子を私は「ミス駅伝」とよびたい。「ミスター駅伝」といえば富士通の高橋健一だが、駅伝ランナーとして坂下は高橋に勝るとも劣らないからである。マラソンに挑戦して失敗したが、駅伝ならばめっぽう強いという不思議なランナーである。ワコールからやってきて、これまで三井住友海上の精神的な柱としての役割を果たしてきた。 坂下がなりふりかまわず、まさに阿修羅のような形相で走ったのは、今期かぎりで三井住友のユニフォームを脱ぐから……と、いうだけではないだろう。 優勝請負人としてのメンツがかかっていたのである。三井住友は昨年、第一生命に足もとをすくわれて3連覇をのがしたが、彼女は自分にもかなりの責任があると思っていたのだろう。 事実、前回の坂下の走りは精彩を欠いていた。1万の持ちタイムにして1分も上回っている相手にもかかわらず、34秒差を最後まで詰められずに逃げられてしまった。そのふがいなさが、自分ながらもがまんならなかったのだろう。 厳しく激しい展開であった。前をゆく京セラの原裕美子とは6秒差、坂下は3.7キロで追いつき、ひとたびはトップに立ったが、原はかんたんには離れない。併走状態がつづく。10k通過が31分30秒というから、ものすごいツバ競り合いである。両者は牽制することなく、トップギアでのデットヒートをくりひろげていた。 たがいにスパートをかける。坂下は遅れそうになっても、懸命に粘ってまた追いすがる。最後は原裕美子がわずかに2秒ほど先んじたが、区間賞はしぶとく坂下がもぎとった。 坂下の勝負へのあくなき執念、それが最終6区で大山の逆転に結びついてゆくのである。
三井住友を最後まで苦しめた京セラの健闘は称えられていい。東京国際マラソンに出場した高仲を欠いて、あれだけの善戦、チーム力は確実に上向いている。選手層の厚さからみて来年は三井海上にとって、さらに脅威の存在になるだろう。 ワコールも6位に終わったものの、大健闘したといっていい。前回までは前半で大きく置いてゆかれ、福士が奮闘して上位への足がかりをつかんでも、最後は息切れするというパターンだった。今年はつねにトップをうかがえるポジションにつけていた。 3区では福士加代子で7位から4位にあがり、5区の野田頭美穂で3位まであがってきている。最終区さえもちこたえていれば3位は十分にあった。 今回のワコールはは福士加代子ひとりのチームではない。野田頭美穂がエースに育ってきていた。福士と野田頭という大砲2門、ほかの4人はすべてルーキという布陣でのぞみ、終始上位をうかがえるポジションをまもっていた。新戦力が育ってくるであろう次回はさらに戦力が充実するにちがいない。 資生堂の3位も健闘した部類である。やはり弘山効果にようるものだろうと思う。天満屋とUFJ銀行は最後の最後で4位、5位にあがってきて帳尻を合わせたが、今回は終始脇役に甘んじたかたちである。 昨年の覇者・第一生命は最終的には7位、昨年はむしろ出来すぎで、真の実力はこんなものかもしれない。 今回18位のみずほ銀行は今回で姿を消すことになる。かつて富士銀行時代は優勝を争う強豪チームだったが、会社の都合で廃部になるという。バブル時代は金融機関が競うように女子駅伝チームを持ったが、昨今は歯が欠けるように企業スポーツからの撤退が相次いでいる。これも時代の流れといえばそれまでだが、ファンとしてはなんとも寂しいものである。 あさひ銀行は「しまむら」に引き継がれ、今回も出場を果たしたが、みずほ銀行の場合はどうなるのだろう。銀行といえばUFJ銀行はどうなるのか。金融機関といえば、三井住友海上も第一生命も、将来的には危ないかもしれない。どうやら女子長距離も冬の時代にさしかかったようである。 それはともかく、レースが終わってみれば三井住友は優勝するべくして優勝したという思いがする。だが、決して平坦な道のりではなかった。まさに苦しみぬいての王座奪還であった。勝つことの難しさを知って、三井住友の選手はさらに大きくなるだろう。 ★開催日:2002年12月14日(日) 岐阜県/長良川競技場発・着 6区間42.195km ★天候:晴れ 気温10.1度 湿度62% 西の風2.3m(12時現在) ★三井住友海上チーム (橋本歩、大平美樹、渋井陽子、岩元千明、坂下奈穂美、大山美樹)
区 間 最 高
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