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最終区の残り4キロ……。 4区でトップに立ち、5年ぶりの制覇を手中にしたかに思われた駒澤の田中宏樹の顔がふと苦しげにゆがんだ。 後ろからは東海の中井祥太と日大の藤井周一がひたひたと追ってくる。7キロ地点では4秒差、そして7.8キロ付近では藤井がスパートをかけて田中の背後に追いついた。中井も少し間隔をおいてくらいついている。大東の柴田純一もギア・チェンジして、先頭集団をうかがう気配をみせる。 そして8.8キロ…… 追い上げ急の柴田が中井を追い抜き、田中と藤井に追いすがろうとしたまさにそのときであった。力をためていた藤井が猛然とスパートをかけた。集団はたちまちばらけた。追ってゆくのは田中だが、藤井は背後をなんども振り返り、顔をゆがめながら渾身のスパートを繰り返す。勝負はその一瞬にして決した。 まさに怒濤の走りとでもいうべきだろうか。ゴールにとびこんだ藤井周一、腕を力強く突き上げる歓喜のポーズ、久しぶり(89年以来)に優勝をもたらしたエースの雄叫びが画面を通して聞こえてくるかのようであった。
駅伝シーズンの幕開けを告げる出雲駅伝は、いわばその年度の勢力地図を占う大会である。だが近年は各校の実力がきわめて接近しており、今年度も昨年以上に混戦の様相を呈している。 本大会でも異変が生じている。昨年2位の神奈川大、さらには伝統校の早稲田が出場権を失って、今年は出てこない。中央大、順天堂大といえば3大駅伝の常連校だが、本大会には出場するものの、大学選手権の出場権をとれなかった。 異変というべきか、波乱模様というべきか。容易に展開が読めきれないなかで、とにかく出雲駅伝を迎えたのである。 短い距離をつなぐリレーマラソンという出雲駅伝の特徴のせいもあるが、波乱含みの背景を象徴するかのように、レースの流れはめまぐるしく変転した。 1区では徳山、2区では王者・駒澤がひとたび流れをひきよせたが、3区では日体に寝首をかかれた。4区ではふたたび首位をうばい返したものの、5区では21秒差あった差を急追してきた日大に17秒まで詰められ、どうしても決定的なリードを奪えない。かくして3位の東海、4位の大東、5位の日体まで、わずか28秒という展開で最終区、アンカー勝負にもちこまれたのである。 優勝のゆくえ、勝負の決着のほかに、今年も主力の一角をなすであろう駒澤、山梨学院の仕上がり、潜在能力を秘める日大の上昇度、さらには中央、大東、東海、順天、東洋などのなかから、抜け出してきて第3勢力となりうるチームはあるのか。本大会のみどころをあげれば、そういうところであった。
山梨学院は不思議なチームである。 昨年度の覇者・山梨は今年も候補のNo.1であった。出雲駅伝は3つのエース区間がポイントになる。1区、3区、6区である。ポイントは3枚の力のあるランナーをそろえられるか……にある。 橋ノ口滝一、高見澤勝、オンベチェ・モカンバ……。エース3枚をもつ山梨学院が図抜けている。駒澤は故障上がりの内田をエース区間につかえず、斎藤弘幸、塩川雄也、田中宏樹、日大は岩井勇樹、中谷圭介、藤井周一、大東は野宮章弘、村田義広、柴田純一という顔ぶれである。 学生長距離界のチャンピオン橋ノ口、ロードに実績ある高見澤、大砲・モカンバ、誰が見ても、このなかでは最強の布陣である。 ところが……。 山梨というチームは同じ失敗を2度も3度も繰り返す。橋ノ口というランナーはトラックでは無類の強さを発揮するのだが、駅伝では実績があがっていない。昨年も駅伝では精彩がなかった。 ロードではピリとしないその橋ノ口を今年も1区につかってきたのである。そして予想通りに失敗を重ねた。 1区の入りは1K=3分30秒前後という超スローの展開、誰もが自重して飛び出さない。スピードランナーゆえに橋ノ口には遅すぎたのだろう。やたらと周囲をきょろきょろと見渡すそぶりがもっぱらで、妙に落ち着きがなかった。ようやく4キロ付近で仕掛け気味に飛び出したが、いかにも中途半端であった。この消極的なレース運びが最後まで乗り切れなかった要因だろう。 レースは6キロをすぎても18チームが団子状態というありさま、ここまで付いてくれば力の劣るランナーでもそこそこ踏ん張れる。残り1キで滝ノ口はタスキを外してスパートをかけるが、徳山大の白濱三徳、中央学院の蔭山浩司に競り負けてしまう。山梨が優勝戦線に残れなかったのはこの橋ノ口の凡走が最大の原因である。 勝負勘がくるっているというか、思い切りの悪さのせいで、流れに乗れなかった。その誤算が最後までひびいた。事実2区では17秒、3区では24秒とトップから置いてゆかれる。エース2枚を使いながら、じりじりと離されるようでは勝ち目はない。流れにのれないせいで4区では53秒、5区では1分07秒も離されて、なんと10位まで順位を落とした。モカンバというスーパーエースがいても、5位まで押し上げてくるのがやっとというありさまだった。
日大の優勝はスピード駅伝ゆえに……という但し書きがつく。登録選手の5千Mの平均タイムでは日大がぬけている。そういう意味では優勝しても何の不思議もないのである。 アンカー勝負となって藤井周一の勝負強さがいかんなく発揮された。藤井の走りはみごとというほかないが、1区から5区のランナーがいずれもうまくつないでいる。 1区は10位ながら9秒遅れ、2区は8位で11秒遅れ、3区では5位で25秒まで遅れるが4区では21秒、5区では17秒差まで追いあげて、藤井にタスキがわたっている。山梨とは逆に前半、中盤まで粘りに粘って、つねにトップをうかがえる圏内に踏みとどまっていた。エースを信頼してそれそれが自分の役割をきっちりと果たした。そこに勝因がある。 日大の力は本物なのか。箱根では王者・駒澤をおびやかす存在になりうるのか。伊勢路の大学選手権でしかとみきわめたい。そういう意味で大学選手権は日大にとって箱根を占う試金石になるだろう。 駒澤は今年も昨年と同じように最終区で逆転を許したが、さすが王者というふさわしいレースぶりであった。駒澤の敗因はエースの内田直将が体調万全でなく、かれをエース区間につかえなかったことにつきるだろう。たが2区の登場したその内田直将がさすがと思わせる走りをみせた。8位から一気に首位を奪った走りはみごとというほかはない。不安視されていたが、終わってみれば区間賞でまとめた。駒澤が終盤まで優勝戦線にのこっていたのは、ひとえに内田の巧走によるものである。体調が万全でなくても、なんとかカッコウをつける。さすがはエースである。
健闘したのは2位の大東文化大と4位の東海大である。大東は全員がムラなく走った。風の強い展開だったこともこのチームに味方しただろう。 東海大は着実に力をつけている。4区の生井怜と5区の小出徹が連続して区間賞をもぎとった。そういう流れがエースに成長した中井祥太の快走にむすびついたのだろう。 ほかでは日体大である。5区まではつねにトップをうかがえるところにいた。それは2区と3区の踏ん張りによるもの。とくに3区・1年生の快走でトップに立ったのはまったくの予想外だった。確実にチーム力は上昇している。 順天堂も健闘したといっていい。1〜2年生中心の布陣は苦肉の策だろうが、中央、東洋、日体を押さえたのは評価できる。 関西勢では立命館が中盤まで上位で検討していた。大学選手権でも健闘を期待したい。 新しい勢力も着実に育っている。徳山大の白濱三徳は花の1区でみごと区間賞をかっさらった。それだけの実力の裏付けある選手だが、関東勢を一蹴した走りに見るべきものがあった。 今年は1年生の活躍も目立った。エース区間の3区で区間賞をとった保科光作(日体大)、4区区間賞の長門俊介(順天堂大)ほかにも宮地章弘(大東大)など有望な1年生ランナーが何人か眼についた。新しい勢力の台頭によって、全日本、箱根の楽しみが増えた。 出雲の結果のみから今年のゆくえを展望するのは、今年の場合はとくに乱暴きわまりないのだが、やはり駒澤中心に展開するだろう。今年の駒澤はスーパーエースはいないが、昨年とかわらず選手層が厚い。大学駅伝ではやはり中心的な存在になるだろうと思う。 山梨学院は今年もやはり一抹の不安が残る。駅伝では実力を発揮できない橋ノ口、高見澤がどのように立て直してくるか。4年生2人がポイントだろう。ふたりとも駅伝で圧倒的な強さをみせつけたことはいちどもない。毎度、毎度、期待をうらぎりつづけている。実力の問題というよりも、モーティべーションの問題ではないか。日大とは対照的にチームとしてひとつにまとまっていない。だ……とするならば、指導体制に問題がある。上田マジックも機能しなくなっているようである。山梨は神奈川とならんで期待をかけているチームだけに、あえて過剰な苦言を呈しておきたい。 優勝した日大は相当期待できそうである。現状でみるかぎり駒澤を追いかける一番手は日大えはないか……と思わせられる。ほかでは神奈川大か。箱根は予選回りだが、調整さえうまくゆけば、駒澤、日大、山梨の間に割り込んでくるだけの力がある。台風の目になる可能性もあるだけに、大学選手権ではとくに動向を注目したいと思う。(2003/10/13) ★開催日:2003年10月13日(祝・月) 島根県大社町出雲大社正面鳥居前〜出雲ドーム前 ★天候:出発時 曇り 気温17.78度 湿度79% 北北東の風5m ★日本大学(岩井勇樹、白柳智也、中谷圭介、土橋啓太、仙頭竜典、藤井周一)
区 間 最 高
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