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東日本実業団女子駅伝は、同じに日に淡路島でおこなわれる淡路島女子駅伝とともに「駅伝」シーズンの開幕レースである。 世界陸上に出場した渋井陽子と田中めぐみがロードにもどってきた。もどってきた……とのべたのは、2人とも駅伝を足がかりにして、トップランナーに育ったいったからである。 渋井陽子が背負う三井住友海上は昨年のこの大会で第一生命以下ををぶっちぎって3連覇、ところが岐阜の全日本では史上初の3連覇をめざしたが、負けるはずのない第一生命に足もとをすくわれた。 マラソンでアテネをめざす渋井ほどのランナーなら、予選という位置づけの本大会などには顔をみせなくてもいいはずである。三井海上は渋井ぬきでも十分に優勝できる戦力をもっている。 渋井があえて出てきたのは昨年の失敗がよほど悔しかったからだろう。2年前のエドモントンで世界をめざすマラソンランナーとなった渋井、翌年には1万Mの日本記録をつくった。ポスト・高橋の期待を寄せられたが、期待の大きさゆえに分厚い壁にぶちあたったようである。昨年のシカゴマラソンでラドクリフに軽くあしらわれてから、おかしくなった。岐阜の全日本実業団駅伝でも区間5位におわり、彼女のせいとはいえないが、結果的に三井住友海上は3連覇を逃した。 今年の世界陸上では1万Mの代表にすべりこんだが、世界の舞台ではまるで相手にしてもらえなかった。またしても世界の壁の厚さをあらてめて思い知らされたことだろう。いまだにラドクリフ・ショックをひきずっている彼女にとって、いままさに正念場である。 彼女のみずからが目標としている「アテネること」に向かって、初心にもどってスタートするために、現在の自分を育んだ「駅伝」から始める。画面にでは相変わらず天真爛漫の渋井だが、いかにも渋井らしい心意気を感じた。
パリの世界陸上帰りのもうひとりのランナー・田中めぐみも、本大会で新しいスタートをきった。埼玉銀行、協和埼玉、あさひ銀行……と、激変の金融機関ゆえに猫の目のように所属名をかえてきたが、あの「埼玉りそな」が引きく受けられるはずがない。このほどチームのほとんどがファッションスーパーの「しまむら」に移籍した。新しいユニフォームで出場する最初のレースが本大会なのである。 1区に登場した田中めぐみ、新天地でスタートする昂ぶりと気負いをぶつけるかのように彼女はスタートから飛びだした。端正な面立ちで、背中をすくっとのばしたフォームですっ飛ばす。1キロ=3分05秒に入り、区間新記録ペースである。追ってくるのは三井住友海上の橋本歩と第一生命の羽鳥裕子、あとは誰も追ってこない。 4キロすぎで橋本と羽鳥が追ってきて、田中はつかまってしまう。踏んばれなかったのは世界陸上からつづいたトラックレースの疲れからだろう。それでも26秒遅れでタスキをつないで、新チームの予選突破を確実にした。 昨年この大会でデビューした橋本歩は1年ですっかりチームの主力に成長している。第一生命の羽鳥裕子もたしか故障あがりのはずだが、さすがにロードは強さを発揮する。 かくして1区は三井海上が橋本歩みですやすと首位に立った。第一生命は13秒遅れだが、資生堂は57秒も遅れて、早くも三井住友海上の4連覇を確実にしてしまった。 田中めぐみにつづいて4位でタスキを渡したのは竹元久美子(SII)であった。竹元といえばかつて駅伝ではめっぽう強かった。ロードの職人、駅伝の申し子というにふさわしいランナーが復活した。区間4位は長いブランクをこえての出場だけに高く評価できる。
三井住友海上の2区は大平美樹、大柄な彼女は終始笑みをたたえながら、いかにもダイナミックなフォームでどんどん後続を引きはなした。1区の橋本につづいて区間賞の快走、区間新記録というオマケまでついた。 そして3区は渋井陽子の登場である。タスキがわたったとき、後続との差は29秒だから肉眼ではほとんどとらえられない。渋井のハナからがんがん突っ込んでゆく、がむしゃらな走りを見たかったが、勝負はすでに決着していた。 10キロ31分41秒という記録は渋井にしてみれば凡庸だが、区間2位のルース・ワンジル(日立)に54秒の大差をつけていた。 上下動のない独特の前傾フォーム、バランスのいい走りは今も健在である。駅伝で育った渋井が、再び駅伝を足がかりにして世界に飛び立とうとしている。来年の1月25日の大阪国際女子マラソンでアテネオリンピック代表をねらう渋井陽子、まだ左ひざが完治していないという。それならば岐阜の全日本などに出ないで、大阪国際一本にかけてもらいたいが、チーム事情がそれを許さないだろう。駅伝を走ってマラソンも走る。企業システムで育ってきた日本の職人ランナーの宿命に耐えてもらうほかない。 渋井と同じように大阪国際でアテネをめざす資生堂の弘山晴美は最長区の5区(11.1K)に出場、区間1位の大山美樹から11秒遅れの区間2位でまとめた。4年前、弘山はシドニー代表にわずかにおよばなかった。実力的には代表に勝るとも劣らなかっただけに不運であった。今回もかなりきびいしいだろう。大阪国際では残る一つの椅子を争うことになる。相手が渋井ではほとんど勝ち目はなさそうだが、最後のチャンスに賭ける彼女の戦いぶりもしっかり見届けたい。 3区で2位の第一生命に2分08秒もの大差をつけた三井生命は、4区は駅伝のスペシャリスト・坂下奈穂美(「駅伝BBS」55に岡崎誠さんの手になるショットがあります)が区間賞、5区の大山美樹が区間新の快走で3分という貯金をつくってしまった。ルーキーながらアンカーに起用された岩元千明は惜しくも2秒差で区間賞をのがしたが、三井住友海上の戦いぶりは完璧であった。
最終的に資生堂が2位にとびこみ、昨年の全日本覇者・第一生命は3位に甘んじた。今年も終わってみれば三井住友海上の強さだけが際立つレースであった。追っかけるチームと力のギャップがいかにも大きすぎるのである。 今年は大会には14チームが出場、そのうち10チームに出場権が与えれれるのだが、最後のひとつを積水化学、スターツ、ホクレンが激しくあらそった。最終的には積水化学が地力を発揮したかっこうである。 同日、関西では淡路島駅伝が行われ、福士加代子のワコールが優勝した。岐阜の全日本への出場権を獲得したのは東日本実業団駅伝の上位10チームと17チームである。 ☆関東(三井住友海上、資生堂、第一生命、日立、パナソニックモバイル、SII、しまむら、みずほ銀行、積水化学) ☆中部(UFJ銀行、スズキ、ユタカ技研、愛知電機) ☆北陸(北国銀行) ☆関西(ワコール、京セラ、ダイハツ、ノーリツ) ☆中国(天満屋、デオデオ、ユニクロ) ☆九州(九電工、沖電気、旭化成、サニックス、TOTO) ざっと見渡して、やはり三井住友海上の優位はゆるがないだろう。昨年もそのように書いていて、結果は第一生命によもやの敗戦をきっしたが、今年は同じ失敗をくりかえさないはずだ。(2003/11/05) ★開催日:2003年11月03日(月・祝) ★コース:さいたま市。埼玉県庁前から上尾市・上尾運動公園陸上競技場まで。49.195K ★天候:曇り 気温6.80度 湿度68% 無風 ★三井住友海上(橋本歩、大平美樹、渋井陽子、坂下奈穂美、大山美樹、岩元千明)
区 間 最 高
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