![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
|
|
|
箱根駅伝 前 回(99) 前々回(98) ■プロローグ ■99出雲大学駅伝 ■箱根駅伝予選会 ■東日本実業団女子 ■99青・東駅伝 ■99東日本女子 ■99国際千葉駅伝 ■全日本大学女子 ■全日本実業団女子 ■99全国高校駅伝 ■全日本実業団 ■都道府県男子 ■横浜国際女子
■順天堂大学 ■駒澤大学 ■神奈川大学 ■山梨学院大学 ■中央大学 ■帝京大学 ■法政大学 ■早稲田大学 ■拓殖大学 ■都道府県女子
■読売新聞 ■日本テレビ ■Saijo's駅伝・金利HP (箱根駅伝の各種データ)
■98-99まとめ ■Back Number |
第76回箱根駅伝は駒澤大学が念願の初優勝を遂げた。ゴールの読売新聞社前で宙に舞った森本葵監督の眼が潤んでいた。監督就任33年目にして初めての箱根制覇は「往路」「復路」ともに制するという完璧なものであった。 駒澤が箱根V戦線に顔を出したのは一昨年からだった。昨年は出雲を制した時点から、よほど自信があったらしく、カントクの口からは威勢のいいことばが機関銃のように飛び出した。大学選手権を勝ったときには、〈大学三冠を奪取する〉と大見得をきったた。その愛すべきキャラクターは、まさに駅伝カントク界の団十郎というべきである。予定通りに往路を制し、復路もトップを走りつづけ、「そろそろ勝利監督インタービューのセリフでも考えようか……」という時になって、手中にしていた勝利がこぼれ落ち、とんだ三枚目を演じなければならなかった。 昨年の轍を踏むまい……と、内心期するところがあったのだろう。今年の森本監督は妙に口が重く、歯切れの悪い物言ばかりがつづいていた。裏をかえせば、それは強気の発言でチームを鼓舞しなくても勝てるという自信の顕れだったのかもしれない。ともかくまる1年間というもの屈辱に耐えてきただけに、胴上げされたときには天にも昇る心地だっただろう。
今年の大会は史上まれにみる大接戦であった。たとえば往路の結果では首位の駒澤大と最下位の東洋大のタイム差はわずか14分05秒である。10分以内に13校が入るというケースは過去の記録にも見あたらない。復路も6区の一斉スタートは2校のみ、繰り上げスタートも9区の2校のみだった。接戦の場合は優勝圏内からこぼれないことが鉄則というわけか。往路では終始2〜3位をキープしていた駒澤大が5区の山登りで抜け出した。復路では昨年と同じく順天堂に追われる展開になったが、昨年の教訓を生かして追撃をゆるさなかった。昨年逆転された9区に主力選手を配するという堅実さが、結果的に勝利にむすびついたようである。 往路も復路もそれぞれ見どころが多かったが、ときに往路には駅伝のおもしろさがすべて凝縮されていた。第1区では法政の徳本一善の果敢な飛び出しが清々しかった。優勝候補といわれれがゆえに思い切った作戦がとれない駒澤、順天、山梨をあざ笑うかのようにすっとばす。茶髪にネックレスという個性的なスタイルは、何年か前の湯浅(専修大)を彷彿させるものがあった。徳本の個性あふれる走りに予選会から注目していたが、期待にたがわぬ快走ぶりをみせてくれた。
注目の2区はトップをゆく法政の坪田智夫の後ろで、優勝を争う駒澤・神屋伸行と順天・高橋謙介の息づまるような2位争いを演じ、1区で大きく出遅れた山梨学院の古田がハイペースで追いあげてくる……。テレビならでは面白さを満喫できた。 権太坂の下りから順天・高橋がスパート、顔を振りながら苦しげに追っかける駒澤・神屋……。ひとたび離された神屋が19キロ付近で再び追いつきたとき、瞬間にみせた高橋のゆがんだ顔……。トップをゆく法政・坪田の涼しげな表情とは裏腹に、前半突っ込みすぎがたたり、後半になってひわかに失速した山梨・古田哲弘の苦悩の表情、テレビカメラは時として残酷である。 3区と4区は順位がめまぐるしく変動した。駒澤と順天は首位をゆく法政など眼中にはなく、牽制しあって飛び出しづらい状況にあった。その虚をついて赤いユニフォームの帝京が5位の位置からひたひたと追いあげてくる。17.5キロでは順天、18.3キロでは駒澤をとらえた。帝京のエース・北島吉章はもともと大柄なランナーだが、赤いユニフォームゆえにさらに大きく目に映って、まるで仁王様がやってきたような迫力があった。 4区では勢いに乗った帝京が55秒差を一気に詰めてトップの法政に追いついた。予選会あがりの2チームが本戦でトップ争いをするなど、誰が想像しただろうか。14キロ付近で帝京はトップに立つのだが、15キロ過ぎでこんどは順天・野口英盛につかまってしまう。順天の4区での奪首は予定通りだったろう。今期急成長の野口はきつちりと自分の役割を果たしたのだが……。翌日、順天のアンカー宮崎が2位で読売新聞社前に帰ってきたとき、その野口ひとりが大粒の涙を流していた。野口の来年を注目してみまもりたい。 往路、復路を通じで最もおもしろかったのが山登りの5区である。3位でタスキを受けた駒澤の1年生・松下龍二は帝京・飛松を交わして、9.7キロでトップを行く順天・佐藤に追いついてしまう。その松下を6位から追ってきた東海・柴田真一が14キロ過ぎで抜きさり、一時は15Mの差がついた。柴田は山登りのスペシャリスト、東海が往路を制するかと思われたが、山下りになって様相は一変した。松下は死んだふりをしていたのか。下りになって走りが一変した。17.5キロ付近で柴田をとらまえると、リズミカルな走りで一気に突き放した。松下が逆転の往路優勝のテープをきったとき、2位の東海には28秒、ライバルの順天には1分59秒の差がついていた。毎年のように山登りは一年生が活躍するが、松下は天性の勝負勘にめぐまれているようだ。
復路は6区がすべてだった。順天は切り札の宮井将治を投入して勝負をかけてきたが、駒澤の大西雄二を追いきれず、逆にその差を3分29秒にまでひろげられてしまう。勝負のゆくえは6区でほぼ見えてきたが、シード権争いは最終区まで熾烈をきわめた。7区終了時点で山梨学院は10位、神奈川大は12位とという信じられない展開であった。この段階でシード権争いは大会前に四強に数えられた両校の動向にかかっていた。9区では8位から11位までに大東文化、山梨、神奈川、法政が小差でつづき、最後まで予断がゆるさない状態だった。神奈川大と山梨が最終的にもぐりこんだのは、やはり地力というものだろう。 駒澤に勝因は島村(1区)、松下(5区)など1年生の活躍だろう。1年生を往路に使えることでオーダー編成が楽になり、往路のポイントに揖斐祐治、西田隆維というエース級の選手を配することができ、かれらはともに区間1位で期待に応えたのである。昨年は9区の北田が順天の高橋謙介に逆転を許して、ほとんと手中にしていた優勝をもっていかれた。今年は皮肉にも同じ9区で駒澤のエース西田が順天・入船満に1分10秒も差をひろげて、勝利を確実なものにしてしまったのである。さらにもうひとつあげれば、森本葵監督が口を慎んだこと。 順大の敗因はやはり5区の山登りだろう。4区の野口でトップに立ったとき、完全に順大の流れになりかけていた。ところが5区の佐藤が5位まで順位を落としてしまった。タイム差よりも精彩を欠いた走りが、勢いに水を注いでしまったとみる。その副作用が翌日の山下りにも影響したように思える。
4強のうち、山梨と神奈川が往路で12位、13位と信じられないほど出遅れた。とくに山梨の往路優勝は有力だっただけに意外であった。上田監督は〈1区の出遅れがすべて〉という。1区での14位という結果が、2区のエース古田や4区のカリウキのペースを狂わせたという。その通りかもしれない。だが、そいうセリフは小生のようなヘソマガリの部外者のセリフであって、現場の監督が口にすべきではない。 あまりにも「敗軍の兵」を語りすぎている。むしろそういう「敗軍の将」のほうに問題がある。14位と出遅れにるようなランナーをどうして1区に使ったのか。それは出雲と大学選手権の結果から、本番の箱根では五分以上に戦えるとみて、山梨陣営というよりも上田監督自身が変なイロケを出したのではないか。古田哲弘を2区にカリウキを4区に配したオーダー編成がそれをよく物語っている。 大学選手権の結果からみて、カリウキは駅伝の走りというものを知らない。ならばヨーイドンの1区で使うべきであった。もし、その手をつかってくれば、今年の山梨は台風の目になるとみていた。他校もそれを恐れていた。もちろん現場の監督自身も分かっていたはずである。あえて避けたのはなぜか。あくまでエースをポイントの2区、4区に配するという正攻法で確実に往路優勝をねらってきたからではないか。1区カリウキ、2区古田できたら、法政にかわって前半だけでなく往路の主導権をにぎっていただろう。駅伝のペースがつかめていないカリウキは、またしても気負って突っ込みすぎ、中盤以降で失速してしまった。山梨は頼みとする2枚看板を使い損なって敗れたのである。 神奈川もまったくいいところがなかった。出雲、大学選手権の結果から見て、かなりの苦戦が予想されたが、今年はとうとう最後まで調子がもどらなかったようである。総合力で勝負するチームだけに、ひとたびトーンダウンすると、どうにもならないということなのだろうか。 健闘したのは4位の帝京、5位の日大だろう。往路3位の帝京、主力を往路に投入したとはいえひとたびはトップにも立った。復路も堅実な走りで順位を落とさなかった。確実に地力強化されたようである。日大はエースの山本祐樹を欠きながらの5位、シード落ち確実と思われただけに大健闘である。総合では7位に終わったが東海大の往路2位もみごとであった。総合3位の中央も1〜2年生が多いだけに来年は期待できるだろう。惜しくもシード権の獲得はならなかったが法政も往路の前半を盛りあげ、持ち味を発揮したといえるだろう。
箱根駅伝も変わりつつある。今年の大会を見て、確実に新しい時代に突入しつつあるように思う。各校ともにチーム力が接近して、もはや伝統や過去の名前というものは通用しなくなった。実力さえあれば、どこでも優勝をねらえる。年ごとに高速駅伝になり、各大学ともに科学的な強化が進んでいる。 上位と下位が拮抗していっそう戦いは熾烈になりつつある。それは予選会あがりの帝京や法政の活躍をみれば明らかだろう。優勝候補といわれても、ひとつまちがうとシード権すら危なくなる。神奈川大と山梨学院が最後まで苦しんだのがその証左である。2000年代を迎えて、箱根駅伝もいよいよ新しい局面に突入した感がある。 ☆駒澤大(島村清孝、神屋伸行、布施知進、前田康弘、松下龍二、大西雄三、揖斐祐治、平川良樹、西田隆維、高橋正仁)
|
|
|Home| 連 載 |電脳エッセイ|競馬エッセイ|ゲストコーナー|
Copyright(c) 1999-2001 Takehisa Fukumoto All rights reserved.. |