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99国際千葉駅伝 前 回(98) 前々回(97) ■プロローグ ■99出雲大学駅伝 ■箱根駅伝予選会 ■東日本実業団女子 ■99青・東駅伝 ■99全日本大学 ■99東日本女子 ■全日本大学女子 ■全日本実業団女子 ■99全国高校駅伝 ■全日本実業団 ■2000箱根駅伝 ■都道府県女子 ■都道府県男子 ■横浜国際女子
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2時間22分12秒、日本歴代2位、世界歴代6位……。山口衛里(天満屋)がぶっちぎりで制した東京国際女子マラソン(11月21日)の興奮が、いまだ冷めやらないなかで、99国際千葉駅伝(11月23日)はやってきた。さらに9月のベルリン・マラソンで日本人初の2時間6分台(2:06:57)をマークした犬伏孝行が、男子の日本代表としてレースに出場するとあって、「お祭り駅伝」とはいえ今年はひと味ちがう大会になった。 2日前のヒローイン・山口衛里は、さっそくフジテレビの解説者に引っ張り出されていたが、彼女は昨年のこの大会で、日本女子チームのアンカーとして7連覇のテープを切っている。山口はその後も、積極的にいくつかの駅伝に出場、ひそかにスピード力とレースの勝負感を身につけたようである。とにかく力強さとスピード力を併せ持つ骨太なランナーの誕生は衝撃的であった。市橋有里、山口衛里、そして高橋尚子が復調すれば、タイプのちがう個性的なマラソンランナーがそろって、シドニーが楽しみになる。 今年の参加は男子が18か国19チーム、女子は15か国16チーム。日本チームは男子が2連覇、女子は8連覇がかかっていた。男子はメキシコ、南アフリカ、オーストラリア、女子はケニヤ、中国、ロシアあたりが強敵……というのが下馬評であった。「お祭り駅伝」というわけで日本はナショナルチームといえども、1,5〜2線級の選手を起用しているから、足もとをすくわれる可能性もないわけではなかった。
それにしても……。日本チームは太っ腹なレースぶりだった。男女ともに1区で50秒以上のハンディを与えて、2区から追いかけるという、逆転劇の伏線をあえてつくりあげてしまう。ファンサービスを意識した粋な演出というわけなのか。たとえそれが怪我の巧妙だったとしても、最後は計算したかのように、きっちりとオトシマエをつけるのだから驚嘆するほかはない。 男子1区(10キロ)は「千葉選抜」の三代直樹が区間賞、ナショナルチームの手塚利明は56秒差の13位と大きく出遅れた。2区から4区まではメキシコ、オーストラリア、南アが首位戦線をキープ。日本は2区の永田宏一郎が区間賞、3区・犬伏孝行が7人抜き区間3位の好走で4位まで上がってきたが、それでもトップまではまだ41秒もあった。この段階ではまだ最終逆転は微妙な情勢にあった。 結果的にみて逆転への布石をつくったのは順位をあげた犬伏かもしれないが、むしろ5区瀬戸智弘(区間3位)の粘走を評価すべきだろう。順位こそあげられなかったが、一時はアメリカを抜いて3位にあがる勢いをみせ、最終的にトップと37秒差でタスキをつないいだのである。41秒と37秒……。わずか4秒しか詰まっていないが、その4秒こそが勝敗の分岐点になったとみる。
今年の大会で最も白熱したのは男子の最終区であった。先頭をゆく南アとオーストラリアを、28秒差でアメリカ、9秒差で日本の高橋健一が追いかける……。昨年もアンカーをつとめてオーストラリアを逆転した高橋健一、今年の走りもみごとだった。1キロ地点でアメリカをとらえ、6.4キロでオーストラリア、7.8キロ地点で南アにならびかけた。アップダウンの激しいこのコースだが、高橋は登りで一気に差をつめてトップに迫ったのである。 高橋と南アのL・ヌケテと高橋の息づまるせめぎ合いは迫力満点、画面から眼が離せなかった。高橋は追いついても一息には行かない。ドングリ目をキョロキョロさせながら、勝機をさぐるように何度もスパートするヌケテ、離されてもゆっくりと追いすがる高橋……。最後はトラック勝負にもつれこみ、高橋が2週目の3コーナーで仕掛けて決着をつけた。両手を横にひろげ、爽やかな笑みをたたえてゴールする高橋は、いかにも満足そうだった。 高橋の勝因をあげるとすれば、駅伝の走りというものを心得ている……ことだろう。それにしてもヌケテは、なぜ、トラックに入って1周目にスパートをかけてしまったのか。差がみるみる開いて一時は勝負が決したかにみえたが、2周目に入ると両者の差は少しずつ詰まって、最後は高橋の餌食になった。あるいは……。解説者が指摘したように、トラック周回は2周なのに、ヌケテは1周と勘違いしていたのではないか。もし、そうだとすれば、いかにも間のヌケた話しである。
女子は1区と3区のエース区間に土佐礼子、小島江美子という若手を配したのは余裕というべきか。4区〜6区に志水、尾崎、小崎とベテランを配し、たとえ前半で遅れをとっても後半で一気に挽回する腹だったのか。二段構えの分厚い布陣で8連覇をねらってきた。 1区、2区はケニアが飛び出した。ワンジロ、ワムチで2位の中国に53秒、3位の日本には1分、4位ロシアには1分14秒もの大差をつけてしまった。3区まではケニアが主導権をにぎり、4区以降は下馬評通りに優勝のゆくえはケニア、日本、中国、ロシアの4強にしぼられた。 勝敗の分かれ目は3区だった。小島江美子(旭化成)が絶妙の走りをみせた。2区を終わった時点で3位ながらトップのケニアとは1分01秒もあった差を小島は、結果的に区間1位の快走で30秒も詰めてしまったのである。タスキを受け取ったのは3位だったが、年齢に似合わず落ち着いていた。2.3キロでは4位のロシアに交わされてしまうが、けっしてあわてない。粘り強く追走して5キロでは逆に突き放してしまう。7キロ付近で2位をゆく中国を追いあげるのだが、相手に気づかれないように、道路の反対側に位置をかえて一気に追い抜いてしまう。いかにも駅伝の巧者らしい走りで中継点では中国に24秒もの大差をつけてしまったのである。
小島江美子は昨年も出場して5区で区間賞を獲得しているが、今年はすっかり日本のエースになった感がある。全日本実業団駅伝に出られない鬱憤を晴らしたというべきか。小島のように表舞台に出てこれない優秀なランナーに出場の機会を与える。最近は大会の存在価値があいまいになっているから、そんなところに出場選手の選考基準を設定したらいかがなものだろう。 勝負を決めたのは4区の志水見千子である。先頭をゆくケニアとの差31秒を、あわてないで少しずつつめ、最後の400メートルであっさりと交わしてしまう。区間記録を21秒も更新する激走である。2位ケニアとは7秒、3位ロシアとは57秒もの大差がついてしまい、この段階で日本の8連覇は濃厚になった。あとは5区の尾崎佐知恵(区間2位)、6区の小崎まり(区間1位)と、いかにもベテランらしい走りで、追ってくるロシアの追撃を断ちきって、危なげなく8連覇を達成した。
男女ともに日本の勝因をあげれば、やはり駅伝のレースというものを知りぬいているからだろう。女子は1区の土佐礼子をのぞいて、全員が区間3位以内、男子も1区の手塚をのぞいて、全員が区間4位以内に収まっている。出場選手ひとりひとりが自分の果たすべき役割を心得ているところに強みがあるのだろう。 だから実力的には拮抗していても、レースでは大差がついてしまう。たとえば女子のケースでいえば、今年のケニアは正真正銘のナショナルチームを編成して、勝ちにきていた。けれども駅伝の走りが出来たのは、日本で育った駅伝ランナーというべき1区のワンジロと2区のワムチだけである。他の選手たちはレースの流れに乗れなくて自己崩壊してしまった。男子の南アフリカ、オーストラリアも同じことが言えるだろう。駅伝は自分ひとりのレースではない。選手それぞれが、たえず変転する情況を読みとって、どのように対応すべきかを瞬時に選択、自分がなぜ走るのかというモーチベィションを明確にしてゆかなければならない。駅伝の本家ゆえに、日本選手たちには伝統のノウハウが身についている。外国勢との差は、そんなところにあるのだろう。 ▽日本男子チーム(手塚利明・永田宏一郎・犬伏孝行・瀬戸智弘・高橋健一) ▽日本女子チーム(土佐礼子・上野理恵・小島江美子・志水見千子・尾崎佐知恵・小崎 まり) 総合成績(男子)
総合成績(女子)
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