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福本 武久
ESSAY
Part 2 |
福本武久によるエッセイ、随筆、雑文などをWEB版に再編集して載録しました。発表した時期や媒体にとらわれることなく、テーマ別のブロックにまとめてあります。
新聞、雑誌などの媒体に発表したエッセイ作品は、ほかにも、たくさんありますが、散逸しているものも多く、とりあえず掲載紙が手もとにあるもの、さらにはパソコンのファイルにのこっているものから、順次にアップロードしてゆきます。 |
西陣そして京都……わがルーツをさぐる |
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初出:雑誌「ぎをん」(祇園甲部組合) No.154新春 1999.01.10 |
インターネットで訪れる祇園
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かつて私の生家が下京で生菓子商を営んでいたころ、年末になると奈良や三重の知り合いが手伝いにやってきた。かれらの楽しみのひとつは大晦日の夜、みんなで「おけら詣り」に繰り出すことだった。
先ずはスター食堂あたりでの夕食をすませ、寺町、京極をゆっくり見物して四条大橋を渡る。南座の招きをひとしきり眺めてから、いよいよ八坂神社へ向かってゆく。
お詣りをすませたあとは、いつも弥栄中学の横から祇園町に入ってゆく。ひっそり静まり返った家並み、松飾りや注連縄で飾られた玄関の奥から、ほのかな灯りが、ボーッともれている。おけら火の縄を振り回しながら歩いていると、そういう街の息づかいから「もうすぐお正月……」という感じが、ゆっくりとこみあげてくるのだった。
京都を離れてまもなく二〇年である。根をつめる仕事がつづいて、神経が疲れてくると、西陣や祇園の一角でしか見ることができなくなった紅殻格子や虫籠窓のある古い街並を歩いてみたくなる。
つい先日、夜中に思いついて、京都に関するホームページに次つぎアクセスしてみた。祇園関連のページは数多く、神社からイメージクラブまでみつかった。
まずは「八坂神社」(http://web.kyoto-inet.or.jp/org/yasaka/)。神社のホームページなど何が楽しいかという向きもあるかもしれないが、祇園祭の全貌を知るには、このページをおいてほかにない。七月一日の「吉符入り」から、三一日の境内摂社「疫神社夏越祓」で閉幕するまで、祇園祭の各種の神事・行事日程が、豊富な写真やイラストで詳しく紹介され、この祭りの奥深い世界がよく理解できる。祭りのメインイベントである宵山、山鉾巡行、神輿渡御、花傘巡行などについても地図と写真で追体験できる。
もうひとつ、「京都発 祇園祭」(http://www.kbs-kyoto.co.jp/gion/06onair/index.html)は、さらにショーアップされたページである。山鉾巡行をビデオでライブ体験できるほか、動画仕立ての祇園の風景なども凝っている。祇園囃子を聞きながら見ることができる〈歴史・変遷〉も、エピソード中心だから、おもしろく読める。
「京都市立弥栄中学校」(http://www.edu.city.kyoto.jp/hp/yasaka-c/)は、アクセスするやいなや校歌が聞こえてくる。柳池中学とのあいだで〈日本最初の学校〉を争っているらしいが、ホームページの開設については、弥栄中が先んじたようだ。〈祇園観光マップ〉は、生徒たちの特選スポットなのだろう。建仁寺、歌舞練場、一力亭、新橋……などは定番だが、そのなかに一銭洋食の店をみつけて懐かしかった。
京都観光の目玉・祇園をめぐるホームページは今後も増えるだろう。けれどもウェブ上の祇園はしょせん別物。祇園を「知る」ことはできても、街の息づかいを「感じる」ことはできそうにない。
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